批評家が選ぶ、黒沢清監督の代表作ランキング!世界の舞台で活躍する現代日本映画の巨匠の“フレッシュ”10選
『スパイの妻 劇場版』(20)で、日本人監督としては5人目となるヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞。近年ではフランスなどに渡って国際共同製作作品を手掛けるなど、日本を代表する国際派監督のひとりとなった黒沢清監督。その作品群を振り返ってみれば、芸術性の高い作品からホラーなどのジャンル映画まで多岐に渡り、どの作品も共通して“黒沢清作品”という確固たるカラーを築きあげている。 【写真を見る】菅田将暉を主演に迎え、ヴェネチアとトロントで大絶賛を獲得!『Cloud クラウド』の海外批評家からの評価は? 日本人監督の作品は、映画祭や映画賞を除くと海外からの評価が見えづらい傾向にあるが、黒沢監督の場合は例外。そこで本稿では、映画批評を集積・集計するサイト「ロッテン・トマト」を参考に、黒沢監督の映画作品のなかから批評家の評価が特に高い10作品を一挙にピックアップ。そのキャリアをたどりながら、現代日本を代表する巨匠が世界でどのように評価されているのか紹介していきたい。 「ロッテン・トマト」とは、全米をはじめとした批評家のレビューをもとに、映画や海外ドラマ、テレビ番組などの評価を集積したサイト。批評家の作品レビューに込められた賛否を独自の方法で集計し、それを数値化(%)したスコアは、サイト名にもなっている“トマト”で表される。好意的な批評が多い作品は「フレッシュ(新鮮)」なトマトに、逆に否定的な批評が多い作品は「ロッテン(腐った)」トマトとなり、ひと目で作品の評価を確認することができる。 中立的な立場で運営されていることから、一般の映画ファンはもちろん業界関係者からも支持を集めており、近年では日本でも多くの映画宣伝に利用されるように。映画館に掲示されたポスターに堂々と輝くトマトのマークを見たことがある方も多いだろう。 それでは、黒沢清監督作品の“フレッシュ”10傑を挙げていこう。 ■94%フレッシュ『CURE』(97) ■94%フレッシュ『トウキョウソナタ』(08) ■93%フレッシュ『旅のおわり世界のはじまり』(19) ■91%フレッシュ『クリーピー 偽りの隣人』(16) ■90%フレッシュ『Cloud クラウド』(24) ■89%フレッシュ『スパイの妻 劇場版』(20) ■81%フレッシュ『散歩する侵略者』(17) ■76%フレッシュ『回路』(01) ■73%フレッシュ『アカルイミライ』(02) ■57%ロッテン『リアル 完全なる首長竜の日』(13) 最も高い評価を獲得しているのは94%フレッシュで並んだ2作品。1990年代の代表作である『CURE』と、2000年代の代表作である『トウキョウソナタ』。各年代に代表作をもっているところが黒沢監督の巨匠たるゆえんのひとつであり、かたや連続猟奇殺人事件を描いたスリラーで、もう一方は不安定な家族模様を描いたヒューマンドラマと対照的な点も見逃せない。 黒沢の名が世界に知られたきっかけとなった作品が、まさにこの『CURE』だった。日本公開の翌年に、オランダのロッテルダム国際映画祭を皮切りに世界各地の映画祭で紹介され、とりわけヨーロッパで大好評を獲得。当時黒沢監督はまだ40代前半。それからは新作のたびに海外映画祭の常連として注目されるようになり、76%フレッシュを獲得した『回路』では第54回カンヌ国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞している。 すでに様々なジャンルを扱う監督ではあったものの、『CURE』や『回路』の評判もあってか2000年代中ごろまではスリラー映画のイメージが先行していた。そのイメージが大きく覆るきっかけとなったのが『トウキョウソナタ』であろう。日本とオランダ、香港の国際共同製作で作られた同作は、第61回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で審査員賞を受賞。独自のヴィジョンを持つ世界の作家を紹介することで知られている同部門では、のちに『岸辺の旅』(15)でも監督賞を受賞している。 興味深いのはこの上位2作品に次いで高い評価を得ているのが、前田敦子を主演に迎えたウズベキスタンと日本の国交樹立25周年を記念した国際共同製作作品である『旅のおわり世界のはじまり』や、第66回ベルリン国際映画祭のアウト・オブ・コンペティションに出品された『クリーピー 偽りの隣人』など2010年代以降の作品に集中している点だ。 国際映画祭の主要部門で上映されるようになったことがその理由ではあるが、それだけ国際的な舞台で黒沢清作品への注目度が上がり、かついずれもが安定した高評価を得ていることが、このスコアからは窺うことができよう。もちろん冒頭でも述べた第77回ヴェネチア国際映画祭の銀獅子賞受賞作の『スパイの妻 劇場版』で幕を開けた2020年代は、よりいっそうその傾向が高まっているともいえる。 第81回ヴェネチア国際映画祭でアウト・オブ・コンペティションに出品され、続け様に第49回トロント国際映画祭にも出品された『Cloud クラウド』は、現時点で90%フレッシュと高い評価を得ている。同作は第97回アカデミー賞の国際長編映画賞の日本代表作品にも選出されており、おもにヨーロッパの映画祭で注目を集めてきた黒沢監督の独自の世界観が、アメリカの賞レースでどのように受け入れられるのかは注目が集まるところ。 この『Cloud クラウド』をはじめ、今後、世界でいまよりも黒沢監督の作品が観られるようになれば、各作品のスコアはめまぐるしく変化していこうことだろう。 文/久保田 和馬