介助状態にならないための「酒向メソッド」とは?
【正解のリハビリ、最善の介護】#50 50歳以上の年齢を迎えると、体の変化に気づき始めます。そして、その後は10歳ごとに、筋肉、骨、脳神経が徐々に低下していきます。60歳を越えると心肺機能も低下してくるので、特に体力の低下を実感します。骨量も骨格筋量も低下し、もちろん脳萎縮も始まり、末梢神経機能も低下します。 ずっと夢を見ていた…歌手の井上あずみさん脳出血での緊急手術を振り返る 骨は骨量が低下する一方で、異常な骨が形成され、脊椎や大きな関節が変形し始めます。さらに、軟骨も減少して、疼痛が生じます。これを予防するには、骨に重力をかけて刺激を与え続けることが重要で、異常な骨形成を防ぐために関節可動域を正常域に保つ運動の継続が必要になります。 筋肉量の減少は、筋線維数が減少するのに加え、筋線維が萎縮するために生じます。特に、抗重力筋である頭板状筋、僧帽筋、広背筋、大腰筋、殿筋群、大腿四頭筋、脊柱起立筋は萎縮が進み、姿勢保持や基本動作が低下します。 筋量の減少が多いのが大腰筋(背骨と大腿骨をつなぐ筋肉)です。歩行しないと、大腰筋、中殿筋(お尻の上部外側にある筋肉)、ヒラメ筋(ふくらはぎの筋肉)が萎縮します。最近の科学研究では、加齢筋肉には、処理しにくい難溶性タンパク質が増加することがわかりました。これを除去して筋肉を元気にするためには、栄養や薬では難しく、「筋トレ運動」で筋活動を活性化するしかない事実もわかってきました。 ■高齢者ではとりわけ筋肉が大切 これらの高齢者の体の変化に対応して、介護状態にならないように、私たちは「SAKOH METHODS(酒向メソッド)」を実践しています。そのポイントは7項目で、①筋力②体力③バランス④関節可動域(柔軟性)⑤認知機能⑥健康医学、そして⑦楽しむことです。 ①筋力は、高齢になると屈曲筋が優位になり、パーキンソン病のような前傾姿勢、体幹が傾くといった姿勢になりがちです。このため、伸展筋=関節を伸ばす際に働く筋肉を鍛えることが重要です。先に挙げた抗重力筋を鍛えます。さらに、殿筋群と太ももを鍛えることが重要です。100歳でもヒップアップしたお尻を保てれば、転倒や骨折は防げます。 ②体力は、有酸素運動を50~60分間は続けることが重要です。週1~2回継続することで維持できます。 ③バランスは、脊柱起立筋と大腰筋の強化訓練が必要です。下腹部を引き締める効果もあり、転倒予防にもなります。 ④関節可動域は、大きな関節である股関節、膝関節、脊椎、肩関節、肘関節などを伸展することが重要です。知らない間に屈曲した状態になって伸びなくなってしまいます。関節可動域を保つと、しなやかな動きで疼痛予防ができます。 ⑤認知機能は、定期的な楽しい交流や学びが必要です。インストラクターが個人的に心のケアもしてくれるパーソナルジムやスモールデイケアを利用するのが有効です。毎週定期的にインストラクターやセラピストらとコミュニケーションをとることがとても重要です。 ⑥健康医学は、生活習慣病を学び、筋肉、骨、脳神経についての知識を学び、加齢と付き合い、心身を大切にするケアを定期的に、季節ごとに行うことが必要です。 最後の⑦楽しみは、ひとりひとり異なると思います。その人なりに「楽しい」と感じる暮らしを考えることが必要です。他人を喜ばせるような活動や手伝いは、自分が幸せを感じることができるので、楽しい生活のヒントになります。 この酒向メソッドを実践するのは、私たちの病院や老健だけでなく、全国のスポーツジムやデイケアでも可能です。それらが全国の自治体にあれば、全国での介護予防が可能になります。このため、今年6月11日に開催された全国市長フォーラムで、「人間回復の街づくり~攻めのリハビリから、まちのリハビリへ~」と題した講演を行いました。私たちの専門は、病気の治療やリハビリと介護ですが、高齢者が介助状態にならない方法をお伝えすることも重要と考えていますから、その方法を全国の市長さんにお話ししました。 全国のスポーツジムやデイケアの店舗で、定期的に地域住民のピアサポートやサロンを開催し、障害からの回復や介護の予防を希望する皆さんに、そのノウハウや情報をお伝えする体制を急いで構築したいと考えています。 (酒向正春/ねりま健育会病院院長)