せんだいメディアテーク「3がつ11にちをわすれないためにセンター」(上)
東日本大震災から3月11日で丸5年、仙台市にある文化施設「せんだいメディアテーク」の「3がつ11にちをわすれないためにセンター」(略称:わすれン!)は、市民が震災を記録し、継承するための多様な活動に取り組んできました。東日本大震災は非常に広範で、被災の形も複雑で多岐にわたります。それだけに市民の視線で記録する活動も試行錯誤の連続。時間の経過とともに、震災を経験していない世代に向けた、記録の継承が課題になりつつあります。メディアテークの指定管理者「仙台市市民文化事業団」職員で震災以来、「わすれン!」を担当してきた北野央さんに話を聞きました。
「基本的には、写真や映像などのモノを集めますと、直接呼びかけることはせず、記録したいヒトを募っています。東日本大震災は、大規模かつ複合的で、一人一人の被災の形も多様です。そのため、さまざまな立場、環境で震災に出合った人々は、自分より被災の度合いが高い人に配慮して、自分の体験を口にすることをためらうことがあります。そのため、私たちは、ビデオカメラ等の技術の有無に関わらず、自分の手でその経験や見聞きしたことについて記録し、発信する活動をサポートすることが必要だと考えました」 東日本大震災の記録をアーカイブする取り組みは大学などの研究機関や新聞社、NPOなどが呼び掛ける形で、数多くの写真や動画が収集されています。「わすれン!」の活動がユニークなのは、被災写真や動画の提供を直接、呼び掛けるのではなく、震災を記録したいと考える市民やNPOなどを支援するスタイルをとったことです。 「東日本大震災は社会的に大きな影響を与えた出来事だったので、状況に合わせて毎年、取り組みを変える必要がありました。例えば、震災のあった年の夏までは、震災を記録したいという参加者の登録が宮城県内だけでなく、県外からも多くあり、その対応に追われました。そして、寄せられた写真や映像などをウェブサイト、小さな展示会や上映会の形で公開するのがやっとでした。4年が経た2015年の時点では、これまでの活動と記録を包括的に紹介する展覧会の開催や、英訳付きの活動報告冊子の発行、中学校と一緒に震災教育の授業などを行いました」 せんだいメディアテークは2001年に作られました。本格的なギャラリーや図書館等の機能が併設する、仙台市の「生涯学習施設」と位置づけられています。パソコンやデジタルカメラが急激に普及する中、市民がデジタル機器を使いこなすのをサポートしながら美術・映像文化の活動拠点として歩んできました。 「開館当時から7階にはスタジオと呼ばれる、市民が文化活動を行うための場所があります。そこでは、震災前から地域の写真や映像をアーカイブするプロジェクトをおこなってきました。震災後、これらの経験や仕組みをもとに、震災という地域の出来事をその対象に加え、市民が主体的に記録活動に取り組むこのセンターを始めたわけです」 例えば、震災前からメディアテークで点字翻訳の活動をしたい人には場所と機材を無償で提供し、活動の結果、生まれる点字本などの成果物を預かって、メディアテーク2階のライブラリーから市民に貸し出すというサービスの仕組みがありました。「震災直前に、この仕組みをさらに広く市民活動に活かそうと、ちょうどスタジオのあり方を考え直していた時期でもありました」。想定もしていなかった震災を契機に、メディアテークの役割やサービスを現実に合わせて変えていく苦労があったことがうかがえます。「3がつ11にちをわすれないためにセンター」はその象徴であり、中核的な場ともなりました。(続く) (メディアプロジェクト仙台:佐藤和文)