「定年後は贅沢したい!」という気持ちはどう抑えればいいのか…元伊藤忠商事会長が明かす「目から鱗の方法」
贅沢なんていらない
定年退職を機に、家を立派にリフォームしたり建て直したりする人もいますが、私は課長になったときに建てた築四五年ほどの家に今も住んでいます。近所に住んでいるかつての部下が、「俺の家のほうが立派じゃないか」と驚いたそうですが、家は雨露がしのげて居心地がよければそれでいいと思っているので、ぜんぜん気になりません。そもそも、「俺は九〇歳になっても使える立派な家を建てよう」とか、「社長になるかもしれないから豪華な家にしよう」なんて、普通の人間だから考えもしませんでした。 社長時代にアメリカへ出張した際、友達の企業の社長から「我が社が持っているホテルの部屋をお使いください」と言われ、最上階にあるいちばんいい部屋に一晩泊まったことがあります。ところが、広すぎてどうも落ち着かない。たぶん、本来はお付き何人かといっしょにいる部屋なのでしょう。電話は大部屋に二つか三つあり、どこで鳴っているのかわからない。「これからは、手を伸ばしたら電話がとれるような小さい部屋にしてください」とお願いして、日本に帰りました。 帰国した夜は、ホテルの予約を部下に頼んでいなかったため、会社近くのビジネスホテルに泊まりました。トイレとユニットバスとベッドだけのシングルルームです。 翌朝、出社して「俺はああいう部屋でいいんだ」と部下に言うと、「社長がそんな小さな部屋じゃ体裁が悪いから困りますよ」と言われました。「そんなことはない。ベッドからすぐ電話はとれるし、手を伸ばせばティッシュペーパーの箱もある。あんなに便利な部屋はないじゃないか」と言い返すと、相手は開いた口が塞がらない、という顔になりました。 壁に穴が開いている部屋や、掃除が行き届いていなくて汚い部屋は、いくら安くても勘弁してほしいですが、きちっと掃除がしてあり、使いたいものがすぐそばにあるなら、それがいちばんいいと今でも思っています。お金さえ払えば快適に過ごせるというものでもないでしょう。そういう気持ちで生活すれば、歳をとってから「懐が寂しくて旅行も楽しめない」といったことにはならないのではないかと思います。 さらに連載記事〈ほとんどの人が老後を「大失敗」するのにはハッキリした原因があった…実は誤解されている「お金よりも大事なもの」〉では、老後の生活を成功させるための秘訣を紹介しています。
丹羽 宇一郎