年収2,000万円「生涯現役」が口癖だった66歳・開業医の“勝ち組人生”が一転…「老後破産の危機」に陥ったワケ【FPが警告】
普段は黒字だが…A先生のクリニック収支状況
筆者はまず、会計事務所から提供されている月次試算表を確認しました。すると、毎月の収支はプラスですが、職員へ賞与を支給した月はマイナスとなっており、1年間を平均すると損益差額は数百万円程度のプラスしかありません。 ここから所得税・住民税を支払ったあとの生活費や奥様の介護等を考えると、かなり厳しい状況であることがわかりました。
老後2,000万円問題は「まったくの他人事」と油断していた
A先生に「老後2,000万円問題はご存じですか?」と質問をすると、テレビや新聞で見かけたことはある程度で、自分には関係ないと、詳しくは把握していないとのこと。 令和元年に金融庁が発表した金融審議会の 「市場ワーキング・グループ」報告書が発端となって「老後2,000万円問題」がいわれるようになりました。 金融庁の報告書によれば、一般的な家庭における老後資金は、退職金等や年金給付等だけでは生活できません。そのうえ、長寿化により生活資金が必要になる年数が伸びているため、最低限の生活を担保するために平均2,000万円程度の資産が必要となります。 ここに介護費用等の支出が発生すればさらにマイナスは拡大。そのためには早い段階から資産形成と運用・投資を行う必要があるという趣旨の報告書です。 A先生はまさにこの問題に直面しています。収益減であっても奥様の介護がなければ、小規模企業共済の積立金を取り崩すことで生活はできたと思います。しかし、状況が変わってしまったためになんらかの手を打つ必要が出てきたのです。
「収支改善」第1歩は
A先生がまず検討すべきは、毎月の収支改善です。クリニックの支出について見直すべき内容がないかどうかをチェックします。 一般的に、クリニックにおける最も大きな支出は人件費関連といわれています。そこで筆者はA先生に、スタッフの職務内容を確認し、現在の来院患者数に見合ったスタッフ数や勤務形態へ変更することで、支出を抑制できないか検討するよう伝えました。 また、レセプトのチェックをすることで収入が多少改善するケースもあるため、適切に請求ができているかどうかもチェックいただくよう依頼しました。 次に個人の支出については、毎月の支出を逐一チェックするよう伝えました。特に個人口座とクレジットカードの明細を細かく確認し、固定費をはじめ不要不急な支出はできる限りカットするように努めてもらいました。 クリニックと個人の支出を見直したうえで、どれだけ収支が改善するかによりますが、この見直しでも改善しない場合には、最終手段としてクリニックの継続について検討しなければなりません。 支出を見直しても現在と同水準の数百万円程度の損益差額しか確保できないのであれば、クリニックは第三者へ継承し、自身は勤務医として再出発することも選択肢として考えられます。勤務医になれば精神的・時間的な余裕も生まれます。自身に万が一のことがあった場合のことを考えると「早めの承継または閉院」は検討すべき内容になります。 第三者へのクリニック承継または閉院という選択肢は、A先生自身も漠然と考えていたそうですが、第三者から改めてその選択肢を提示されたことで現実を突きつけられ、非常にショックを受けていました。