シャープ「中国企業に技術供与」が危険なワケ/木暮太一のやさしいニュース解説
経営不振が続いているシャープが、中国企業との提携により、生き残りを図っています。 シャープは中国の国有企業、中国電子信息産業集団(CEC)と提携し、2015年から最新の省エネ液晶パネル「IGZO(イグゾー)」を合弁生産すると発表しました。
キャッシュ不要の合弁だが
合弁生産というとわかりづらいですが、簡単に言うと、「そのCECに生産技術を供与し、生産してもらう」ということです。 シャープは資金力、コスト競争力のある中国企業と組んで生き残りを目指すということですが、ただ、この提携が吉と出るか凶と出るかは、かなり微妙なところです。 というより、筆者は「凶と出る」可能性が高いと見ています。 ―――「どういうこと?」 御存知の通り、シャープは経営が厳しい状態です。そのため、シャープに新しく出資してくれる企業は少なく、また銀行からの借入も「これ以上はムリ」という状態です。つまり、もう外部からお金を調達することは難しいのです。 そこに、CECとの合弁の話が出て来ました。 CECとの合弁では、シャープはお金を出資するのではなく、「技術供与により得られる収入」をそのまま出資できます。つまり、「キャッシュ」は必要なかったのです。 これであれば、シャープも新しい勝負ができるようになります。 ただ、この「技術供与」が非常に危険なのです。
半導体技術を韓国企業に与えた結果
かつて1980年代、日米貿易摩擦問題の中で、日本はアメリカから「もっと輸入を増やせ!」と圧力をかけられていました。そしてその圧力をごまかすために、半導体の技術を韓国に与え、韓国で製造させてそれを擬似的に輸入していました。 これで「いやいや、日本もちゃんと輸入してますよ」と取り繕ったわけです。 ―――「それがいけなかったの?」 半導体製造のノウハウを韓国企業に持っていかれてしまったのです。そしてそれ以後、韓国の半導体メーカーは日本企業のライバルとなり、コスト競争力を活かして、日本企業からシェアを奪っていったのです。 当時の韓国はまだまだ経済的に弱く、技術を渡しても大丈夫という認識があったのかもしれません。しかし、結果は違いました。 今回のCECも同様です。現在、CECが持つ大型液晶パネルの世界シェアは1%未満。1位のLG(約28%)、2位のサムソン(約25%)と比べると、かなり小規模です。またシャープ(約6.7%)と比較しても、「ライバル視するほどでもない相手」かもしれません。 しかし、「歴史は繰り返す」懸念もあります。 半導体については、技術を得た韓国企業が成長し、競争力を得ました。一方、日本メーカーは競争力を失いました。 目先の「利益」を求めたために、長期的な利益を失ってしまったのです。よく言われる「損して得取れ」の逆で、「(少しだけ)得」して「(大きな)損」を取ってしまったわけです。 今回のシャープの合弁はそれと同じ運命をたどる危険性があります。 ―――「でも、どちらにしろ、遠い将来のことはわからないし、「今」を生きられればいいんじゃない?」 それが、「遠い将来」ではないかもしれません。 デジタル製品は、生産技術も「デジタル」です。つまり、職人さんの熟練技(アナログ)ではなく、生産マニュアルを単純にコピーすれば、製造できてしまうモノが多いです。 となると、まったくノウハウがない企業でも、マニュアルと生産技術だけ教えてもらえれば明日からでも、まったく同じ製品を製造できるのです。