なぜかアジアで伸びる国産小麦粉 日本流パンの食感人気が背景に、輸出額最高
小麦の生産大国ではない日本で製粉した小麦粉の需要が高く、輸出額が最高となっている。経済成長に伴い食文化が多様化するアジアで、食感が合う日本流のパンなどが人気を集めていることが背景にある。(共同通信=角田隆一) ▽行列店 「味が濃くなくて、自然な味わいが好き。ほぼ毎日来ます」。シンガポール西部ジュロン、日本の町屋を意識した店構えのパン店「五穀七福」で、近くで働く会社員ティーさんは香ばしい「モルトくるみパン」がお気に入りと話す。価格は2.5シンガポールドル(約280円)。地元店のパンより割高だが、レジに行列ができる日が多い。 兵庫県西宮市の製パン会社「カスカード」が現地飲食大手とフランチャイズ契約を結び、2017年に進出。西宮の工場で職人に研修を受けてもらい、日本と同品質の商品提供を目指す。シンガポール国内に9店舗まで拡大した。 小麦粉は全て日本から輸入し、現地で製パン。生産担当の入江敏功専務は日系製粉メーカーの小麦粉は品質にぶれがないと評価。「高温多湿の国で欧州の乾燥したパンは湿気で味が落ちる。日本のパンはもっちりした食感が維持されるのが人気の理由だ」と話す。
▽細かな製粉技術 日本の小麦粉の輸出額(金額ベース)は2023年は前年比7.5%増の138億円で過去最高を更新した。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を批判する中国の食品輸入制限など波乱要因はあるが、需要の総量も落ちていない。 日本の製粉大手幹部は「顧客ニーズに合わせ、細かく仕様を変えて製粉できるのが強み。まだ他国ではまねは難しい」と話す。マレーシアやシンガポールでは、地場資本でも日本製の小麦粉の使用を売りにするチェーンもある。 ▽うどんも 華人が持ち込んだ麺文化はあるものの、小麦産地がほとんどない東南アジアは米食文化だ。中間層が増え洋食やパンが広がり、各国で小麦の輸入が増加。中国と首位を争う小麦輸入大国となったインドネシアでは丸亀製麺が100店以上に拡大、嗜好の多様化が進む。 日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)の伊藤哲也シンガポール代表は、日本の食パンを再現するために日本製の小麦粉が必要として、ここ10年で、中国や韓国、台湾などでまず広がったと指摘。最近は東南アジアに波及し「成長が続くインドネシアやベトナムなど人口大国でも、需要拡大の流れは続くのではないか」と推測した。