優勝経験ないルーキーに巡ってきたチャンス(Wリーグ・ENEOSサンフラワーズ 鈴置彩夏)
チームの危機を託されたラストポゼッション
ENEOSサンフラワーズの拠点がある千葉県柏市と、同じく県内の八千代市で開催されたホームゲームはいずれもチケット完売。3月9日の初戦はENEOSが81-69で快勝し、皇后杯決勝で敗れた雪辱を果たした。しかし、八千代会場へ移動した翌日は最大12点リードを許していたデンソーに猛追される。残り11秒、馬瓜エブリンに逆転3ポイントシュートを決められ、80-81で逆転負けを喫した。 星杏璃、高田静が相次いでケガをしたことにより、ENEOSのガード陣は手薄になっている。ピンチの状況に、チャンスが巡ってきたのがルーキーの鈴置彩夏だ。3月10日のデンソー戦では4本の3ポイントシュートを沈め、14点と躍動する。残り44秒には宮崎早織がファウルアウトしてしまったことで、逆転を許したあとの大事なラストポゼッションも託された。 「タクさん(渡嘉敷来夢)のところにボールを入れてから、自分がリングにアタックして相手を引き寄せてそのままタクさんで行くか、または自分が打つかという指示でした」 スローイン後、チームファウルが残っていたデンソーはファウルで時間を流す。仕切り直しのサイドスローインの状況を、鈴置はこう振り返る。「自分から行こうとする気持ちが少し足りなかったです。先輩方に任せてしまった部分があり、パスを入れてから自分がシュートを打つつもりでプレーできれば良かったです」と消極的になったことで、ラインを踏むターンオーバーによりチャンスは潰えてしまった。しかし、プレータイムを得られているからこそ、緊迫した中での経験を前向きに捉えている。 「まだプレーオフではなかったので良かったです。試合を重ねるにつれて、しっかりとガードとしてチームを引っ張っていけるようにがんばっていきたいです」
スター軍団を前に緊張していた1年前
日本リーグ時代を含め、Wリーグで23回も頂点に立ち続けるディフェンディングチャンピオン。強豪ENEOSに迎えられた1年前、鈴置は「もう最初はすごい人たちばかりで……」とスター軍団を前に圧倒されていた。ミスしてはいけない気持ちが先走り、逆にプレーが強張ってしまう。そんな鈴置に対し、「大丈夫だよ、ミスしてもいいよって優しく声をかけてくださるので、そのおかげで思いっきりプレーできるようにはなってきています」と先輩たちの歩み寄りにより、少しずつ緊張も解けていった。それでも、最高峰の舞台に慣れるには時間を要した。 「白鷗大学のときは上級生になってからずっとスタートで試合に出て、自分が引っ張っていました。でも、ENEOSに入団した当初は相手チームのレベルも数段上がったことで自信がなくなってしまい、消極的なプレーばかりになっていました。練習からユラさん(宮崎のコートネーム)とずっとマッチアップしてきたことで少しずつ慣れて、自信がついてきたのかなと最近ようやく思えてきたところです」 これまでENEOSのルーキーは、それほど多くのプレータイムが与えられてきたわけではない。星は4年目の昨シーズンから、高田は今シーズンから安定した活躍ができはじめたばかりだ。スター軍団の中に入り、練習から積み上げてきたことで力が発揮できる。急きょ訪れたチャンスに対してルーキーは、「自分がやらなければいけない」と一気にギアを上げ、少しでもチームに貢献できるよう心がけてコートに立っている。 「ディフェンスでプレッシャーかけることはいつも言われており、毎回徹底するようにしています。ユラさんの交代で出るのですが、ゲームコントロールの部分はまだまだです。そこで落ち着いて指示を出せるようにならなければいけないですし、やっぱり遠慮していたらミスも多くなってしまいます。強気で攻めたり、シュート打ったり、自分から発信していけるようにしたいと思っています」 デンソー戦では、1年先にWリーグで活躍する東京医療保健大学出身の木村亜美と対峙した。「今年は代表候補に選ばれ、昨シーズンからスタートで起用されているので経験が豊富です。いつもすごいな、と思って見ていました。でも、自分も少しでも追いつけるようにディフェンスで嫌がらせたり、強く攻めることでファウルをもらって相手に嫌だなと思わせたりするようなプレーを心がけていました」と鈴置は話し、大学時代から続くライバル同士のマッチアップがWリーグでもはじまった。 今年度のインカレで7年ぶりに日本一となった白鷗大学だが、鈴置が在籍していた昨年まではずっと決勝で敗れてきた。「トップチームであるENEOSに入れたからこそ、絶対に優勝したいです」とまだ見ぬ頂点への憧れは人一倍強い。 現在3位のENEOSだが、1位トヨタ自動車アンテロープスと2位富士通レッドウェーブと同じ21勝3敗。今週末3月16日・17日の最終節は、福岡でトヨタ自動車との直接対決が待っている。接戦必至のカードだからこそ、鈴置がさらなる殻を破るチャンスでもある。
泉誠一