北方領土交渉 帰属問題の解決には米国の関与が必要
大戦後、千島列島を「放棄」した日本
第2次大戦の結果、日本の領土は大幅に削減されました。1945年8月の「ポツダム宣言」では本州、北海道、九州および四国は日本の領土であることがあらためて確認されましたが、「その他の島嶼」については「どれが日本の領土として残るか、米英中ソの4か国が決定する」こととになり、日本はその方針を受け入れました。しかし「千島列島」や「台湾」などについて、帰属は決定されませんでした。 ポツダム宣言を受けて第2次大戦を法的に処理した「サンフランシスコ平和条約」は、自由主義陣営と社会主義陣営による東西対立の影響を受け、「千島列島」や「台湾」の帰属を決定することはできず、日本はそれらを「放棄」するだけにとどまったのです。 日本の戦前の領土を縮小したのはポツダム宣言とサンフランシスコ平和条約の2つだけです。戦時中、米英ソの3国間ではドイツ降伏後のソ連の対日参戦などを盛り込んだ 「ヤルタ協定」なども合意されましたが、それはあくまで連合国間の問題であり、日本はそれに拘束されません。 日本は今日でもポツダム宣言とサンフランシスコ平和条約を忠実に守っており、「千島列島」については放棄したままです。ロシアは現在の交渉において、「千島列島」は第2次大戦の結果としてロシアが獲得したことを認めよと主張していますが、「千島列島」を「放棄」した日本が、ロシアの主権を認めるのは同条約に違反することとなり、それはできません。法的に不可能なのです。また、このロシアの主張を裏付ける根拠は皆無であり、日本もその他の国もロシアが「千島列島」の領有権を得たと認めたことは一度もありません。
戦後処理でもっとも影響力があった米国
では、どうすればよいでしょうか。ロシアが現在の主張を改め、国際法にしたがった理論構成の主張に変えるのが一つの方法ですが、ロシアが果たしてそのようなことに応じるか疑問です。 もう一つの方法は、「第2次大戦の結果に基づいた解決方法をあらためて探求する」ことです。その中で米国の役割を新たに明確化する必要があります。第2次大戦の処理においてもっとも影響力があったのは米国であり、実際ロシアに対して「千島列島」の「占領」を認めたのも、また日本に対して「千島列島」の放棄を求めつつ、ロシアへの帰属を認めなかったのも米国でした。 日本としては、米国に、そこで止まらず最終的な帰属問題の解決まで協力を求めることは理屈の立つことです。 もちろん、米国としても「世界各地で起こる第三国間の領土紛争には関与しない」という大方針があります。また、これまでの伝統的な米国政権の外交方針と一線を画すトランプ政権がどのようなポジションを取るか、予測困難な面もあります。しかし、千島列島の帰属の問題は、米国による決定の結果です。現在の米国外交としては例外になるでしょうが、米国に関与を求めることは合理的です。 一方、ロシアは米国との対決姿勢から、北方領土交渉に米国の協力を求めることはしたくないという気持ちが働くでしょうが、千島列島の帰属など日本に不可能なことを要求するより現実的ではないでしょうか。 日ロ両国は、1956年の共同宣言だけを交渉の基礎とするという不正常な状態を一刻も早く解消した上で、あらためて日米ロ3国の立場を整理し直し、その結果に従って米国の協力を求めるべきです。平和条約・北方領土問題については日ロ間で解決を図る、という従来の方針とは大きく異なることになりますが、第2次大戦後の秩序を問題にすればするほど、二国間だけでは解決できなくなっていることは明らかです。 なお、北方領土問題は経済協力などを含め、将来の利用を抜きには語れなくなっています。また、安全保障に関わる問題も出てきています。米国の協力を得ることはこれらの点でも望ましくなっています。
----------------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹