最低賃金、昨年からの上積み焦点 労使で激しい攻防も
最低賃金(時給)の改定を巡る議論が25日、厚生労働省の審議会で始まった。物価高騰への対応から、令和6年春闘では大企業を中心に大幅な賃上げ回答が相次いでおり、最低賃金も初めて千円台に乗せた5年度からどれだけ上積みされるかが焦点だ。労働側は大幅な上積みを主張するとみられるが、急激な引き上げは企業経営を圧迫するため、激しい攻防が予想される。 【グラフでみる】年齢別の平均給与は? 第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは最低賃金について「日銀が2%台後半とする今年度の物価上昇率見通しに負けない水準として、3%以上の引き上げは必要」とみる。 最低賃金の全国平均は平成28年度以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響が大きかった令和2年度を除いて、毎年3%程度の引き上げが続いている。 それでも、足元では賃金の伸びよりも、円安進行などによる物価上昇の勢いの方が強い。物価変動を考慮した1人当たりの実質賃金は4月に前年同月比0・7%減と、25カ月連続でマイナスが続く。生活が改善したとの実感を得るには、物価高に耐えられる水準への引き上げが不可欠となる。 だが、最低賃金の引き上げは、雇用の約7割を支える中小企業の経営を圧迫する。最低賃金近辺で働く人は小売業や飲食サービス業などで多く、これら業種には中小企業が多いからだ。 日本商工会議所が5日に公表した中小企業の賃上げ調査では、回答した1979社のうち令和6年度に賃上げを実施(予定含む)と答えた企業は74・3%に上った。ただ、賃上げ企業の59・1%が、業績が改善していないのに人手確保のための「防衛的賃上げ」を迫られており、人材難でやむを得ず待遇改善を進めているのが中小企業の実態だ。 原材料費などのコスト上昇分を価格に反映する「価格転嫁」も鈍っている。中小企業庁によると、中小企業などの価格転嫁率は今年3月に46・1%で前回調査(昨年9月)から0・4ポイント増と微増にとどまる。日商の小林健会頭は「価格転嫁は道半ばだ」と強調する。十分に資金を確保できない中小企業にとって人件費負担は深刻な経営課題であり、最低賃金の過度な上昇は事業の存続に影響する。