最も恐ろしい日本のヤクザ映画は? 世界に誇る珠玉の傑作(1)市街地での射殺シーンがリアル…歴史を変えた名作
マキノ雅弘から北野武まで、長い歴史を誇るヤクザ映画。1970年代に東映が展開した“実録路線”は社会現象を巻き起こし、その後のVシネマに至るまで、形を変えて多くの名作が映画史を彩ってきた。 今回はノンフィクションに材をとったヤクザ映画を中心に名作をセレクト。場面のディテールと共に紹介する。第1回。(文・ 村松健太郎)
『仁義なき戦い』(1973)
監督:深作欣二 脚本:笠原和夫 原作:飯干晃一 出演:菅原文太、松方弘樹、渡瀬恒彦、田中邦衛、金子信雄、梅宮辰夫 【作品内容】 第二次世界大戦敗戦直後の広島・呉。軍務を解かれて帰郷してきた広能(菅原文太)は、度胸を買われ、暴力団・山守組の一員となる。小さい組だった山守組は勢力を拡大し、他の組と対立を深めていく。そして、日本の暴力団抗争史上で最も多くの血が流れた「広島ヤクザ抗争」がはじまる。 【注目ポイント】 “実録路線”の嚆矢であり、決定版。1960年代に鶴田浩二や高倉健といったスター俳優を主演に擁して大量生産された任侠映画の興行力が徐々に落ち、また内容が1970年代という当時の時代に合わなくなってきた中で、新しい路線を求めていた東映が選んだのが飯干晃一による同題のノンフィクションだった。 第二次世界大戦後の広島・呉市の闇市で実際に起きた“広島抗争”と呼ばれるいざこざの当事者だった美能幸三の手記を基にしており、シーンのほぼ全てが実際に起きた出来事だという。 シリーズを通して主演を張ったのは本作のヒットで日本を代表する銀幕スターとなった菅原文太だ。松方弘樹など、共演陣も本作を経てことごとく人気者となっていった。 それまでの任侠映画では、暴力描写はリアリズムではなく様式美を追求する向きが強かったのに対し、本作の監督・深作欣二はドライで唐突な暴力描写を随所に挿入。予期せぬ形(時に一般市民も巻き込みながら)で発動される暴力シーンに観客は慄然とする一方、今までになかった描写に触れ、大いに興奮した。 映画は大ヒットし、“実録路線”の本格導入とシリーズ化の流れが決まった。『仁義なき戦い』から直接繋がった作品が4作品作られ、その後も“仁義なき戦い”というブランド名を冠した作品が大量に作られていった。 ディテールを見ていこう。 利権争いがヒートアップし、内部抗争は激化、時にはその銃口が警官など外部にまで向かうようになる。 そんな中で起きるのがクライマックスの暗殺シーン。組織内の権力を掌握したかに見えた松方弘樹演じる坂井だが、子どもへの贈り物を物色している最中に、真昼間の街中で無残にも射殺される。市街地を舞台にした一般市民を巻き込む銃撃シーンは、その後、このシリーズの定番の描写の1つとなった。 (文・ 村松健太郎)
村松健太郎