藤野涼子『七夕の国』インタビュー “削ぎ落とす”というアプローチで開いた新境地を語る
最近積極的に観ているエンタメ作品は?
──幸子は作中で「丸神の里の外に出る」選択肢を考える場面があります。藤野さんご自身がその立場に立たされたらどう思いますか? そうですね……原作の時代設定って、今よりももっと前なので。携帯もスマホじゃないですし、インターネットもないから情報も限られたものしか入ってこない。そういう状況だったら、新しい価値観がたとえ目の前に現れたとしても、そこを出ていこうという気持ちになるのはなかなか難しいかな、と思いますね。ただ今はスマホとかで簡単に情報が得られる時代なので、今の時代だったらちょっと違うかもな……? とも思ったり。私個人としては、お仕事柄本当にいろんなことに挑戦させていただくことが多いので、新しい環境に挑戦したい! とか飛び込みたい! という思いはあるんですけど(笑)、それと同じぐらいにやっぱり幸子の感じる「怖さ」とか、今まで自分が積み上げてきたものから外れてまた新しく積み重ねることへの躊躇、そういうのも理解できるかなと思います。 ──ちなみに、ナン丸は明らかに幸子に最初から好意を抱いていますが、幸子はどうなんでしょう……? 幸子は自分が丸神の里にとらわれていることはわかっていて、外に出たいという思いはある。でもやっぱり、「自分が抱えている問題は誰にも理解されないのでは」という思いも強いし、だったら共感してくれる人がいる丸神の里にいよう、と思っている人なんですよね。そこにナン丸さんという人が入ってくることで、ナン丸さんには私のようになって欲しくないから近づけたくない、同世代の人だからこそ丸神の里の考えに囚われて欲しくない、だから最初は「警告」をしている。でも、ナン丸さんの方がいろいろ経験する中で成長していって、自分ができなかった「試行錯誤してこの状況を抜け出そう」としていく、その姿を見たときにある種の憧れを抱くようになったのではないかなと思っています。「自分には持っていないものを持っている人への憧れ」でしょうね。 ──先ほど、今回の幸子役はこれまでにないアプローチで苦心したという話がありましたが、作品ごとに役へのアプローチは変えていくタイプですか? いや、特に役によってアプローチの方法や演じ方を変えたり、というのはあまりないですね。もちろん年齢を経ることでいろいろな変化もありましたし、留学をさせていただいたりもしたので、そういう経験から得たものもたくさんあります。だから基本的なところは変わっていないんですけど、役の捉え方や深め方に関しては年々変わってきているような気がしますね。というのも、最近は舞台作品を観るときもオペラやバレエだったり、割と伝統的な芸術をよく見るようにしています。そういうものを見たときに、以前は「難しくてよくわからないな」と思ったり、なんとなく壁のようなものを感じていたのですが、今はそういった壁みたいなものがなく、作品を楽しめている自分が居ます。 この24年間生きてきて、いろいろな役と向き合ってきたことによって、例えば脚本を一回読んだときの捉え方、舞台や映画を1回観たときの理解の深さというようなものがどんどん増してきてるな、と感じています。それが最近の変化です。 ──伝統芸能的なものをよく観るようにしているのは何かきっかけはあったんですか? 周りからすすめていただいたり、ですね。あとは今、例えばバレエだとアニメや漫画、小説などから情報を得られたりするじゃないですか。恩田陸さんの小説『spring』がバレエが題材だったり。そういうものを通じて観てみたい、という思いが強くなりましたね。 ──プライベートでも、エンターテインメントを積極的に観に行ったりするんでしょうか? 行きます! 最近観に行ったものだとオペラがすごく面白かったです。だから今、私と同世代ぐらいの人にぜひ観てほしいなって思ってますね。演目は『リゴレット』だったんですけど、オペラなのでずっと歌ってるんですよ、3時間! 当たり前なんですけど(笑)その感情が手に取るようにわかるというか、字幕を読まなくても出演者の感情がとにかくすごく伝わってくる、本当に刺激を受けました。今回の『七夕の国』も、一見静かに見えても皆さん力強く溢れんばかりの芝居をしていますので、そこを観てほしいな、と思ってます。 ──他に趣味などはあったりしますか? 手を動かして何か作るのは好きですね。でも私、基本的にアウトドアな人間で、家に一日中はいられないタイプなんですよ。細かな手作業とかが好きな割には、家にいられないという……せっかく休みがあっても「少しでも外に出たい!」とすぐ思ってしまって。だから台本を読むときも、晴れてたらすぐ公園に行きます。寝転がって読んでたりしますよ、そういうのが好きです(笑)。