【9番街レトロ・京極風斗】「エゴサーチからの卒業」
神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動している芸人「9番街レトロ」の京極風斗(きょうごく・かざと)さんは、極端なほどに“0か100か”で生きている。そんな京極さんの日常にも障害やストレスはあり、嫌なことを言われることもある。少しでもストレスを減らすために京極さんが実践したオススメの方法とは? また、誰に何を言われようともブレずに大切にしていきたいものも教えてくれました。 ハモネプ出場の歌うま芸人【9番街レトロ・京極風斗】って?
9番街レトロ・京極風斗
連載【0か100かで生きてゆく #68】 ー エゴサーチからの卒業 ー
Illustration: Kazato Kyogoku
本当の価値
読者のみなさんは漫才師の具体的な仕事についてどれぐらい理解されているでしょうか。 正直、まっとうに働かれている皆様には理解させないことこそが漫才師の本懐なんですが、それが粋だの無粋だの言ってられないほど、裏側もエンタメにしなくてはいけない時代になりまして。 「裏側もエンタメにしなくてはいけない」というと少し語弊がありますね。 正確には、どうせ見えてしまうなら、いたずらに消費される前にこちらから商品として出してしまえという言い方が正しいかもしれません。 それがSNSなのか、動画コンテンツなのか、こんな感じのコラムなのか、やり方はさまざまですが、とにかく過程も商品になる。そんな時代になりました。 それにより、少し面倒なことが起こっています。 我々が子供の頃のタレントの価値というのは、言うなれば「売れている」か「売れていないか」だけで語られるものだったのですが、裏側も商品化したことにより、「“どのように”売れたか」が大事になってしまったんですね。 どんな苦労があって、どんな泥水を啜って、どんな方法で売れたのか。 とうの昔に売れている方に関しては、今の結果から逆算して、キャラや、スタンスから、丁度良い過程を演出できますが、今まだ売れていない芸人に関しては、リアルタイムでその道程を現実のままお届けすることを余儀なくされています。 そしてその道程に、「苦労」を求める方が多いのは10年芸人をやっている僕が、肌で感じております。 演者がしっかりと苦労していれば需要と供給が成り立ち、「応援のしがいがある」と判断されるのでしょう。 もちろん我々9番街レトロにおいても苦労していないわけではないのですが、他の芸人と比べ、相対的に、順調と言ってしまえる位置にいるのは確かです。 キー局2本のレギュラー番組に、一方は冠。それなりに集客力もあり、様々な舞台に呼んでいただき、仕事がない日はほぼなく、それぞれの特性を活かしたピンの仕事もままあります。 結成からの歴で言うとかなり優秀な部類だと思うのですが、やはりそれを良くは思わない方もいらっしゃり。 次に「良くは思わない方」の取る行動は、粗探しになるんでございます。 そういった方々から様々な意見をいただきますが、大方、要約すると、「ネタが弱いくせに」になるんですな。 確かに我々、有名な賞レースで結果を残したことはなく、学生お笑い出身よろしくクレバーな漫才は披露しておりませんが、個人的にはネタが弱いとは思っておらず。こと寄席公演に関して言えば、我々が最もウケることは多々あります。 それがおもしろいかおもしろくないかなんてのは人によりズレが生じて当たり前のものでありますので、言ってしまえばそれは大した問題ではありません。 しかし、次いで多い意見として「ファンにウケているだけ」というものがありまして。 これが厄介で。 では、そのファンはどのようにして獲得したのかまで考えていただけることは少なく。 誰にも求められていない段階から、誰かに求められる段階へ、そして求めていただけたなら、そういった方々にガッカリされない内容で。 これらはどんな業種にも通ずる精神だと思っているのですが、芸能界というのは、飲食店で例えるなら、食べたことのない人間のレビューや、わざわざ嫌いなものを注文した人間のレビューも、ある程度PVを稼ぐ世界でして。 これからその「ファン」を増やしていこうという作業において、とってもとっても、障害とストレスになるわけでございます。 なので、僕はXをアプリごと削除し、エゴサーチをやめました。 見えないものは無いのと同じで、障害は残れど、少なくともストレスは消せるので。 とっても快適なのでおすすめ。 「身内ネタ」なんて言葉もありますが、とどのつまり売れるとは、「この国のほとんどが身内になること」だと僕は考えます。 例えば売れている芸人が身内をイジったらウケますよね。 それをどれだけ拡大させられるか。それがポイントなんです。 それの最大値はおそらくダウンタウンで、芸人は皆、そこを目指して頑張っているんだと思います。やり方は違えど。 もちろん賞レースの結果でアンチを黙らせてやろうという気持ちはありますが、こればっかりは志一本でどうにかなる問題ではございません。諦めたわけではなく、日々模索し、やれることをやれるだけ試行しています。 とりあえずは、現状、確実にできる働きとして、今いるファンの皆様を大切にすることを続けていきたい。 常連を蔑ろにする店に名店はありませんからね。 ブレずに頑張るのみ。 アンチの皆様が掌を返して、千切れた手首に手を合わせるのが楽しみです。 エゴサやめたんで、掌を返したことにも僕は気付けないんですけどね。 ●PROFILE 京極風斗(きょうごく・かざと) 1995年8月9日生まれ。大阪府出身。吉本興業所属のお笑いコンビ。2019年4月1日に9番街レトロを結成。神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動中。 個人チャンネル「京極風斗の道楽ちゃんねる。」ではアートとインテリアを軸に、好きなことを配信。 コンビのYouTubeチャンネルでは日々の出来事やネタの動画を配信。 そのほか、絵が得意で自らデザインしたオリジナルグッズをSUZURIで販売している。 Instagram @kazato.kyogoku ------------ Text & Illustration: Kazato Kyogoku
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