【解説】“本好きたちを憎んでいた” 芥川賞受賞「ハンチバック」…著者の市川さんが作品で訴えたことは
■著書を通して訴える「読書バリアフリー」
市川さんがこの作品を通じて訴えたいことは何なのか。 障がいのある当事者が描いた作品と強調されることについて、市川さんは「実は、私はOKを出していて、なぜかというと、これまであまり当事者の作家がいなかったこと、芥川賞も重度障がい者が受賞した作品もあまりなかった。どうして2023年にもなって初めてなのか、みんなに考えてもらいたい」と述べています。当事者だからこそ、伝えられることがあるということを強調されていました。
そして、市川さんが作品を通じて1番伝えたかったことは、「読書バリアフリー」です。これは、どのような立場の人も読書をしやすくしたいということです。 たとえば、作品の中には「本を両手で押さえて没頭する読書は、ほかのどんな行為よりも背骨に負荷をかける」という表現があります。さらに「私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保(たも)てること、書店へ自由に買いに行けること」「その特権性に気づかない『本好き』たちの無知な傲慢(ごうまん)さを憎んでいた」と表現しています。 市川さん自身の経験から、障がいがある人の読書のしづらさを描き、健常者中心の暮らしへの鋭い指摘もしています。
ちなみに市川さんが執筆活動で愛用しているのは「iPadミニ」です。薄さや軽さなど、自分に合ったものを見つけるのが大変だったそうで、「今の機種が無くならなければいい」とも話していました。
「読書バリアフリー」についてはこんな動きもあります。障がいのある方を含め、すべての人が読書できる社会を目指した法律ですが、この「読書バリアフリー法」という法律が2019年に成立しています。 この中で、目が見えない人には点字の本が知られていますが、それ以外にもやさしい言葉づかいで書いた理解を助ける本や文字が大きく書かれたものなども広がっています。 さらに、音楽をダウンロードするようなやり方で、手軽に本を音声でどこでも聴けるサービスを展開する民間の会社もあります。 環境を整える動きは始まっている一方で、市川さんは「読みたい本を読めないのは権利の侵害だと思うので、環境の整備を進めてほしい」とさらなる進化を訴えています。 障がいのある方が、今よりもっと生きやすくなるために社会がアップデートされていくことが大切です。そのためにできることを、一人一人が行動する社会に変わっていかなければならないと思います。 (2023年7月20日午後4時半ごろ放送 news every.「知りたいッ!」より)