JR九州の新観光列車「かんぱち・いちろく」これまでと何が違う? 座席や窓など随所に「脱・水戸岡デザイン」
黒い外観はこれまでの水戸岡デザインを踏襲しているようにも見えるが、違いはある。たとえば、「ふたつ星4047」には先頭車両のてっぺんに2つ重ねた星形のマークが載せられているなど凝りに凝った装飾が細部に至るまで施されているが、「かんぱち・いちろく」はこうした装飾がなくすっきりとしている。 車内に足を踏み入れると、1・3号車の畳個室は水戸岡氏が得意としたデザインを想起させるが、ほかの部分では、水戸岡氏が手がけた車両にしばしば搭載されていた大川組子のような装飾物は見当たらない。ソファの生地もシンプルで水戸岡デザインの車両でよく見られる意匠はない。1号車のソファ席や3号車のボックス席はシティホテルのラウンジのようなイメージだ。
水戸岡デザインの車両では窓に縁を付けて小さめにしたり、障子を用いたりしていた。水戸岡氏は窓を額縁に見立てて、車窓の景色がどう見えるかに腐心していたのだ。一方の「かんぱち・いちろく」は余計な飾りを廃しているため窓に大きさが感じられ、外の景色がストレートに飛び込んでくる。 いすやテーブルの装飾もシンプルだ。その代わりに車両内にはアートをふんだんに取り入れた。 アートディレクションを担当したNPO法人BEPPU PROJECT(別府プロジェクト)の中村恭子代表理事によれば、「物語の入り口に連れていく」をコンセプトに、福岡、大分両県にゆかりのあるアーティスト10組が、沿線の歴史や文化、自然などを感じさせる24点のアートを制作した。かつて、JR東日本が現美新幹線という観光列車の車内に多数のアートを展示していた。そこまで大がかりではないものの、車両のデッキに描かれた大型のアートウォールは迫力があるし、客室の窓側にはさまざまなアートが設置されており、それを観ながら車内を歩き回るのも楽しい。
そして、この列車の最大の売りが2号車。樹齢約250年の杉を使った長さ約8mの一枚板カウンター。共用スペースのラウンジとして使用され、ビュッフェとしても使われる。 ■総力戦で生み出した観光列車 古宮社長に車両の印象を尋ねると、「車窓の風景とアート、地元の食材やおもてなし。これらを足し算すると”動くスイートルーム”だ」という答えが返ってきた。水戸岡デザインの観光列車も車窓の風景や地元の食材を重視しているが、車両自身の存在感が際立っていた。それに対して「かんぱち・いちろく」は総合力での完成度が高いといえる。八幡社長も「風景と窓、アートと文化が主役です」と話している。