能舞台の修理完了 竣工式「感慨無量」 黒岡の春日神社/兵庫・丹波篠山市
兵庫県丹波篠山市黒岡の春日神社で進められていた国重要文化財の能舞台の修理・耐震補強工事がこのほど完了し、同能舞台で竣工式が厳かに執り行われた。関係集落の自治会長や氏子総代、来賓ら約50人が出席し、工事の完成を喜んだ。 一瀬貞明宮司が祭主として神事を執り行い、出席者の代表が能舞台にしつらえた祭壇に玉串を供えるなどした。 竣工式を主催した丹波篠山春日神社崇敬会の松尾俊和会長は、「令和元年から資金集めを始め、各自治会の皆さんには無理を申し上げた。改修工事の計画を進めていく中で、さまざまな課題が立ちはだかったが、多くの人に協力、寄付を頂いたおかげで、ようやくきょうを迎えられた。感慨無量」と感謝を述べた。 工事は、これまで一度も修理をしたことがなく、老朽化していた楽屋の屋根を最初に、2022年12月から始まった。鏡の間や控えの間の屋根のふき替えのほか、舞台の柱や床下などに耐震補強を施した。楽屋の屋根の改修工事の際には、1本の「く」の字に曲がった松を構造材として活用した全国的にも珍しい工法で建てられていることが分かった。総事業費は1億6300万円で、うち75%を国が補助。残りを県と市の補助と、氏子をはじめとする地域住民らの寄付で賄った。 能舞台の修理はこれまでに、明治21年(1888)、昭和60年(1985)、同63年(1988)に行われている。 能舞台は、大坂城代や老中も務め、能楽愛好家としても知られた篠山藩第13代藩主・青山忠良が幕末の文久元年(1861)に寄進。正統的な格式に加え、床下に丹波焼の大甕を7個置いて音響効果を高めるなど西日本屈指とされ、平成15年(2003)に重文に指定された。現在、元日深夜に「翁」が、4月初旬に「春日能」が上演されている。
300人が幻想世界堪能 舞台工事で2年半ぶり 篠山春日能
春日神社で進められていた能舞台(国重要文化財)の修理・耐震補強工事の完成を記念した「篠山春日能」(同実行委員会・中西薫委員長など主催)が同能舞台で催された。工事で延期していたため、2年5カ月ぶりの開催で49回目。時折、霧雨が降るあいにくの天気だったが、約300人の観客が集まり、幽玄な能と、笑いを誘う狂言を鑑賞し、600年以上もの歴史を紡ぐ伝統芸能の世界を堪能した。 シテ方観世流能楽師で人間国宝の大槻文藏さんらが能「羽衣」を、茂山千五郎さんらが狂言「千鳥」を、梅若志長さん、梅若紀長さんらが能「猩々乱」を上演した。 「羽衣」では、雅やかな衣装で天女が天上界へ舞い上がるクライマックスシーンの最中、少し強い風が能舞台を吹き抜けた。羽衣がハラハラとはためき、本当に空を舞っているかのような光景が見られ、観客は、自然が織りなす演出によって、より一層、際立った幻想世界に酔いしれた。 妻と一緒に鑑賞した川東丈純さん(60)は、「静寂な神社の中にある能舞台という場の空気感が最高だった。すっかり能の世界に引き込まれ、タイムスリップしたかのような感覚にとらわれて非日常を楽しめた」と満足げだった。