建築探偵・藤森照信さんが全国の名茶室訪問 茶室を知ることで見えてくる茶道の極意
利休以前はお茶にもさまざまな喫みかたがあった。けれど利休の美意識が、お茶の世界を変えてしまった。 「利休が秀吉のために作った待庵(たいあん)はわずか二畳です。待庵の中にしばらくいると、狭いとは感じず、むしろ落ち着いてくるんですよ。そこには利休の工夫が凝らしてあるからです。床の間の隅や天井を土で塗りまわしたり、窓の大きさやバランスが考えられていて、全体的にほわっとした雰囲気を作っています」 紹介されている茶室はどれもユニークだが、同時に利休の影響が必ずどこかに感じられるという。 「利休自身は他の茶人のやりかたを許容していたけれど、彼は当時の政権の中枢にいましたし、その美学は自ずと広がっていきました。利休は黒楽茶碗を長次郎に焼かせましたよね。黒はあらゆる色を集めてできる色だから『器の単位』として黒楽をつくったのではないでしょうか。同じように『建築の最小単位』として利休は茶室を作ったのだと思います。最小単位だから基本になるし、いつまでも古びないのです」 日本各地にある歴史的名席を訪ねてみると、予想外に多様な茶室が遺されていた。お風呂とお茶をともに楽しむ「淋汗(りんかん)の茶湯(ちゃのゆ)」の習いを伝える茶室が、二つも保存されていた。傷みやすい木造建築を大切に守り続けてきた人たちのおかげだ。 「お茶を喫んでみたいけれど作法が面倒──という人は、建築としての茶室から入ってみたらどうでしょうか。茶室を知ることで、利休が求めた禅宗に通じる内省的な感覚に触れられると思います」 (ライター・矢内裕子) ※AERA 2024年12月16日号
矢内裕子