米兵による傷害事件、1年半経っても刑事裁判始まらず 被害者は怒り吐露
2022年7月9日の夜、当時、米海軍横須賀基地を母港とする第7艦隊イージス駆逐艦ミリアスの乗組員だったクリーガー・ダニエル米兵(当時28歳)が、隣接する逗子市内の海岸からJR逗子駅に向かって歩いていた市民4人に突然背後から体当たりをして突き飛ばしたり地面に叩きつけたうえ、蹴るなどの暴行を加える事件が起きた。 同米兵は逃走の末、逗子駅で身柄を拘束され、逗子警察署へ連行された。だが同署は逮捕をせず、彼の身柄を解放し在宅捜査としてしまった。 事件を受けて同年9月、逗子市議会は「謝罪と賠償を求める決議」を採択。11月には横浜地方検察庁横須賀支部が傷害事件として同米兵を起訴した。しかし被告弁護人および代理人についた高野隆弁護士が公判前整理手続きを要求。事件から1年半経つ今も刑事裁判が始まらないという異例の状況が続いている。そのため、事件からちょうど1年が経った昨年7月10日、被害者4人が米兵に合計約2100万円の損害賠償を求め提訴した。 被告側は接触したことは認めつつ、事件当日はアルコールの影響により「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」(民法713条)であったため「賠償の責任を負わない」と主張。そもそも「アルコールの影響によってせん妄を伴う急性アルコール中毒に陥ったのは、2015年に経験した脳損傷の影響によるもの」であるため「故意又は過失によって一時的にその状態を招いた」(同条但し書き)ものには当たらないとして争う姿勢だ。 これに対し、被害者4人の代理人を務める呉東正彦弁護士は「高次脳機能障害判定テスト等も行なわれておらず、他にも顕著な結果はない。脳障害との関連性を裏付けるものはない」と反論。同米兵が被害者を倒したうえで攻撃行為をしている以上とても故意がなかったとは言えず、かりに飲酒や脳障害による影響があったとしても免責される理由にはならないとしたうえで、「米兵犯罪の多くが飲酒による酩酊状態が原因である中、これではまったく免責されてしまう。本人が払えないならば、SACO合意(※)に基づき、政府に支払いを求める」との方針を明らかにし、今後反論する予定だ。