映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 ―「型破りな教室」
実話をもとに子どもたちに宿る可能性を見つめる物語
大人たちは生きるのに精一杯で子どもたちの教育について考える暇もないようなメキシコの街にあるホセ・ウルビナ・ロペス小学校。「型破りな教室」は、2011年にこの学校で起きた奇跡のような出来事について書かれた雑誌の記事をきっかけに作られた。 映画は、ドキュメンタリーを思わせる飾り気のないスケッチから始まる。家事をこなし弟妹に声をかけながら登校する少女、海辺の掘っ建て小屋で目を覚ます少年、ゴミの山で手鏡を見つける少女。彼と彼女たちが向かった学校は規則ばかりで楽しみなどなにひとつない場所。教師たちは全国共通の試験であるENLACEの成績にしか興味がなく、成績の悪い6年生の半分は卒業も危ういと思われている。しかし、新学期の朝、教室に行ってみると奇妙な教師が机をひっくり返し「これは救命ボートだ!」と叫んでいる。はたして、彼はなにをしようとしているのか?
目の前に広がる最悪な状況は変えられないと誰もがあきらめてしまっている場所で、子どもたち自身の内にある可能性だけを信じて行動を起こした教師フアレス。「質問を投げかけ、わからないことは自分で調べる」というシンプルな方法によって、子どもたちはさっきまで知らなかったことを「知る」ようになり、それぞれの瞳が徐々に輝きだす。撮影現場では常に3台のカメラを回し、子どもたちの自然な表情をとらえることに成功している。生徒たちの変化が大人に影響していくところも興味深い。特に原則主義者のように見えていた校長がフアレスのかけがえのない助力者になっていくのを見ていると、いくつになっても人は変われるかもしれないと励まされる。情熱的な教師フアレスを「コーダ あいのうた」(21)のエウヘニオ・デルベスが演じている。 文=佐藤結 制作=キネマ旬報社(「キネマ旬報」2024年12月号より転載)
「型破りな教室」 【あらすじ】 アメリカとの国境に近いメキシコの街マタモロス。貧しく治安も悪い地区にある小学校で6年生を教えることになった教師フアレスは、勉強にまったく関心を持たない生徒たちを引きつけるため、指導要領を無視した大胆な授業を始める。最初は怪訝な顔をしていた生徒たちだが、自分自身で答えを見つけていくことの楽しさに少しずつ気付いていく。 【STAFF & CAST】 監督:クリストファー・ザラ 出演:エウヘニオ・デルベス、ダニエル・ハダッド、ジェニファー・トレホ、ミア・フェルナンダ・ソリス ほか 配給:アット エンタテインメント 2023年/メキシコ/125分/Gマーク ●12月20日より全国にて順次公開
キネマ旬報社