生産者と消費者が〝納得する価格に〟 アークスの横山清社長
付加価値商品 しっかりアピール
生産コスト上昇が進む一方、消費者の生活防衛意識が高まる昨今。生産者と消費者双方が折り合える農産物価格をどう見いだすか。アークス社長で、全国スーパーマーケット協会会長を務める横山清氏に聞いた。 【図】アークスの会社概要と事業の特色 ──あらゆる商品やサービスの価格が上昇する情勢を、どう見ていますか。 「デフレからインフレ」という歴史的な変化が、進行形で起きている。ついこの前まで世界中からおいしくて良い品を、安い値段で安定調達できた。それが、昨今の地政学的リスクでがらりと変わった。商品によっては倍々ゲームで価格が上昇し、一種の価格崩壊が起きている。 一方、高騰した商品の中には便乗値上げもあり、今になって下げる動きもある。変化する物価体系があるべき姿に行き着くまで、時間を要するだろう。 メーカーからの値上げ要請は、しっかりした理由があれば対応するが、顧客が納得できない値上げは許さない。価値変容に対応し、「新価格体系」への移行でインフレに挑戦していく。 ──アークスは「納得価格」を打ち出しています。この意味は。 「納得価格」は私の造語。農産物でいえば、生産者は肥料代も種代も上がっている。「原価を考えると、これくらい値段を上げてくれないと利益を出せず、生産が成り立たない」という声は承知している。 ただ、全て反映すると消費者は別の商品を選ぶようになり、品物自体の需要が下がってしまう。生産者、流通業者、消費者との間で、今までに経験のない格差ができている。この格差を埋めるのは難しい作業だが、互いに折り合える「納得価格」を見いだしたい。 青果物は他社と差別化できる重要な商品。安全・安心・鮮度に加え、安定的に供給して「納得価格」で買ってもらう必要がある。健康や味など、付加価値のある商品はしっかりとアピールして売っていきたい。
ブランド商品 魅力を訴求
――農産物の調達で工夫していることはありますか。 農業従事者が減り地方を中心に卸売市場の縮小・撤退も進んでいる。市場からの買い付けだけでは将来、安定的な数量の確保が難しくなると認識している。 調達リスクに備え、ラルズ(北海道に展開する、アークスグループの中核スーパー)では買い付けの仕組みを変えてきている。個人生産者や農業法人からの直接買い付けや、卸を通じて特定のJA・法人・生産者を指定した買い付けに取り組んでいる。 品ぞろえと品質を安定させるため、生産者がしっかりと利益を出せる価格での長期契約に取り組んでいる。当然、販売価格は変動するので年によって損もある。それでも長期的な視点に立てば、小売り・生産者、さらにはお客さまにもメリットがあると考えている。 生産者には、高品質の品の安定生産、生産コスト低減に集中してもらう。スーパーは、ネーミングを含めたブランディングで商品の魅力を訴求し、納得価格で買ってもらう能力が必要となる。ストーリーを作って進めていくと同時に安定的な価格で買い支えていく、ウィンウィンの関係を築きたい。 ――食品スーパーの競争も激しさを増しています。 売れ筋の品物を赤字でも良いから安く売って集客し、集まったお客さまにもうかる商品を売って収支を合わせる。現在もこのような戦略を取る店もある。コンビニやドラッグストアが台頭し、業界の垣根も無くなってきた。 私は、今後の3年間が勝負と捉えている。新しい価格体系を再構築するための移行期間だ。この間に、構造改革を伴う大きな変化に対応できないと、淘汰(とうた)されてしまう。 ある程度、規模のメリットを満たしていることは重要だ。ただ、短期間で集中してシェアを取れば勝つ、というわけでもない。過去にこの戦略を取りながら、無くなった会社もいる。苛烈な競争は大変だが、競合を成長の糧とし、お客さまに還元していきたい。(聞き手・橋本陽平)
よこやま・きよし
北海道出身。1985年に大丸スーパー(現アークス)社長。89年、丸友産業と合併しラルズ代表取締役社長。2002年アークス代表取締役社長。5月28日、代表取締役会長に就任予定。09年から新日本スーパーマーケット協会(現全国スーパーマーケット協会)会長。
日本農業新聞