全世界のレコードを支える社長の思いとは?最初は「何も分からなかった...」が世界で1社しかない原盤メーカーに
レコード盤をターンテーブルに置き、針を落とすと音楽が始まる。「針が溝を通って音が鳴るのも面白いのかな」。レコードの原盤「マスター盤」を製造するパブリックレコード(長野県宮田村)の奥田聖社長(48)は、若者を中心とする近年のレコードブームの理由をこう推測する。同社は11月、日本音楽著作権協会(JASRAC)の第10回音楽文化賞を受賞。レコード文化を支える気持ちを新たにしている。 【写真】マスター盤の仕上がりをチェックする社長
マスター盤は、円形のアルミ板の表面をラッカー塗料でコーティングして製造。レコード会社はこれに溝を刻んで原盤とし、量産用の金型を作る。1976(昭和51)年設立の同社は82年にマスター盤の製造に参入。3年前に米国の競合社の工場が火災で全焼して以降、世界唯一のメーカーとして生産を続けている。
長崎市出身。大学時代、当時の奥田憲一社長(現会長)の長女と知り合って結婚した縁で、99年に入社した。実は「マスター盤が何かもよく分からなかった」と振り返る。音楽会やピアノ発表会の演奏を収録したCDやDVDを作る部門で働き、2021年に3代目の社長に就いた。
わずかなほこりの付着も許されない「繊細な作業」
主力のマスター盤の製造は未経験。「代替わりするなら細かく知らなければ」と作業を通じて学んだ。ノイズが発生する可能性があるため、盤はわずかなほこりの付着も許されない。ラッカー塗料は温度や湿度で粘度が変わる。製造ラインのベルトコンベヤーの速度や塗料が出る量を調節し、規定の厚さに仕上げる。「繊細な作業だ」と実感した。
JASRACは「精度の高い技術を継承し、世界中のレコードの供給拠点として文化を根底から支えている」と評価。奥田さんは受賞を「会長や社員を含め、取引先やユーザーなどいろんな人に支えられて続けてこられたことに対する評価」と受け止める。
90年代のCD台頭 一時は生産数激減
90年代、CDの台頭で国内レコード各社がアナログ盤の製作を中止し、80年代後半に月1万枚だった自社のマスター盤の生産も千枚に激減。精密部品の組み立てや録音部門など他の事業を支えに海外需要を引き受けてきた。受注枚数が少なくても品質維持を徹底。必要とする顧客のために高品質の製品を届けようと、誇りを持って製造していた―と奥田さんは入社前の状況を推し量る。