大阪ガスの実験集合住宅、社員ら入居してデータ集め30年…建物は100年以上住み続けられる設計
社員を住まわせながら、環境やエネルギー、暮らしに関するデータを収集する大阪ガスの実験集合住宅「NEXT21」(大阪市天王寺区)が30年を迎えた。これほど長い期間、活用されている居住型の実験施設は珍しいという。日常の生活環境下で省エネシステムを評価するだけでなく、災害時に自立できる住居のあり方も検証しており、未来の住まいづくりに一役買っている。 【写真】30年を迎えた大阪ガスの実験集合住宅「NEXT21」。緑が目立つ外観が特徴だ(大阪市天王寺区で)=同社提供
■緑化
地上6階、地下1階で、延べ床面積は4577平方メートル。1994年4月に居住実験が始まった。大ガスの社宅として、現在は社員とその家族の14世帯42人が暮らす。入居するには社内審査を受ける必要があり、平均倍率は3倍程度という。
骨格となる部分と内装部分を分ける「スケルトン・インフィル方式」で建てられており、実験の内容に応じて、間取りが変えられるようになっている。
建物は地上から屋上部分まで様々な草木が植えられている。小動物や昆虫のすみかになっており、NEXT21に初期から関わる大ガスの男性(64)は「屋上にやってきた鳥が壁面の緑をつたって下まで降りてくることもある」と話す。
■省エネ
実験は多岐にわたるが、当初から中心的なテーマとなっているのが省エネだ。2020年3月に改修した住戸は、断熱性能を高めつつ、太陽光発電と最新型の家庭用燃料電池「エネファーム」が導入され、必要なエネルギーを全て賄う「エネルギー収支ゼロ」を実現している。
災害を想定した実験にも取り組む。夏場と冬場にそれぞれ停電や断水が48時間続いたと仮定し、NEXT21に設けた発電システムや備蓄物資が有効か検証。無理なく暮らせることを確認したという。
入居者には、それなりの「覚悟」が求められる。だが、「子供たちは積極的に楽しんでいた」「特別感があり、常識をリセットする点では良かった」などと評価する声が多い。
■製品化も
NEXT21は入居者に試作品を評価してもらう場にもなっている。自動で風呂の浴槽を洗うシステムは、入居者の声を反映し、洗浄時の水量を減らして製品化した。一方、調理中の鍋やオーブンの中をテレビに映し出す「リモートキッチン」は評価が得られず、コストが見合わなかったこともあって商品化を見送った。