【今の女性を描きたかった】湯川れい子が『六本木心中』で変えたかった“男性目線の昭和歌謡”
小林明子が歌う『恋におちて-Fall in love-』。アン・ルイスの『六本木心中』。シャネルズの『ランナウェイ』。松本伊代の「センチメンタル・ジャーニー」など、数々の昭和歌謡を生み出してきた作詞家で音楽評論家の湯川れい子さんに、『六本木心中』に込めた、女性作詞家としての強い思いについて聞きました。 【動画で見る】『六本木心中』制作秘話
■「好きに書いてください」と言われて書いた『六本木心中』
私が“その時代”を意識して書いたもので、生き残ってくれていてうれしいのは『六本木心中』とか『あゝ無情』ですね。『六本木心中』は「アルバムの中の曲だから、どうぞ好きに書いてください」と言われて、エレキギターでメロディーが入ったテープをディレクターから渡されました。
■シンディ・ローパーの思い“女の子だって遊びたい”がきっかけ
それがちょうどシンディ・ローパーが『Girls just Want to Have Fun』(1983年リリース)という曲が大ヒットして、グラミーの新人賞をもらって、ニューヨークのシンディにインタビューに行くという時だったんです。真夜中のフライトで、機内での時間が12時間くらいあるので、その中で出来るだろうと思って。深夜に皆さんが毛布をかぶって寝静まってる中、ヘッドホンで聴きながら詞を書いたんです。 当時、シンディの『Girls just Want to Have Fun』という曲に、日本のレコード会社が『ハイスクールはダンステリア』っていう邦題をつけた事にシンディがすごく怒っていて、「そんな歌じゃないの。一体ハイスクールという歌詞がどこにあるの?これは、女の子もただ遊びたいっていうだけよ。何で女の子は外で遊んで朝帰りしちゃいけないの?何か悪いことしてるの?女の子だって理由があってそうしてるんじゃない?って。それに対する抗議の歌なのよ」って。
■当時の歌謡曲に登場するのは“男性が描く理想の女” 私は“現実の女性の思い”を描きたかった
そのシンディに会いに行く所だったものですから。例えば当時の日本の歌謡曲は、歌い手さんが女の人の心情を歌う時に、普段はそんな格好もしていないのに着物を着て、髪の毛をアップにして、未練たらしくとりすがるような曲が多かったんですけど、「そんな女どこにいる?私の友達も含めて、今そんな女の人いる?みんな女の人は努力するだけ努力して、どうしようもない夫でも一生懸命尽くすだけ尽くして、ああ、もうこの人はダメねって思って別れたら、2度と後ろを振り向かないのが女なのよ。そういう友だちをたくさん見てるし、自分もそうだから、何でそういう女が描けないの?」と思って。 それで気づいたんですけれど、当時の歌謡曲を書いている作家はみんな男性だったんです。それも男性、あれも男性、これも男性…。髪の毛をアップにして、着物を着てとりすがっている女っていうのは、彼らにとっての理想の形なんだって。でも、現実は違うでしょ?だとしたら、私は“今の女”を描きたいと思っていました。 それで、アンちゃん(アン・ルイス)なら描かせてもらいたい。アンちゃんは、あの頃本当に苦労してた。子供を持って色々と大変なアンちゃんを見ていたので、「じゃあ、そういうものを描かせてもらおう」と思ったのが『六本木心中』だったのね。だから、それが今も歌い継がれて残っているのはすごくうれしいですね。