SNSに不適切な投稿を繰り返し…岡口基一裁判官の罷免は妥当だったのか【「表と裏」の法律知識】
【「表と裏」の法律知識】#230 令和6年4月3日、国会の裁判官弾劾裁判所は、SNSに不適切な投稿を繰り返し行ったことが、「裁判官としての威信を著しく失うべき非行があった」として仙台高等裁判所の岡口基一裁判官を辞めさせる罷免の判断を下しました。戦後、罷免の判断がされたのは、岡口裁判官で8人目になります。 《人間腐ってきてるな》X投稿で削除謝罪…長野県飯山市長のエリート人生と故郷への思い しかし、今回の判断は適切な判断だったといえるでしょうか。 裁判官には、権力者からの圧力に屈せず公正な裁判を行えるよう、手厚い身分保障が与えられています。国会議員により構成される弾劾裁判で罷免される場合も、裁判官が職務上の義務に著しく違反している場合、職務を甚だしく怠っている場合、そして裁判官としての威信を著しく失うべき非行を行った場合に限られます(裁判官弾劾法2条2項)。罷免される裁判官は弁護士などになる資格も失い、退職金も支給されません。不服を申し立てることもできません。つまり罷免という判断は、会社などでの懲戒解雇よりも圧倒的に重い処分なのです。 過去に罷免と判断された事案は、裁判官が児童買春やストーカー事件などで刑事処罰を受けているような事案です。裁判官としての威信を著しく失うべき非行であると評価されるのはやむを得ないでしょう。確かに、岡口裁判官の行ったSNSでの投稿は不適切なものと評価されても仕方がないかと思います。現に民事での損害賠償請求も認められているので、違法性も相応にあるでしょう。そして、不適切な表現行為に対して懲戒処分がなされるのは、私企業であっても公務員であっても同じです。 しかしながら、表現の自由は憲法上最も尊重されるべき権利の一つであり、裁判官にも表現の自由はあります。今回の罷免は裁判官にSNSをやるなといわんばかりの判断で、これにより萎縮効果が出ていることはいうまでもありません。 また岡口裁判官の表現行為は、犯罪行為を原因として罷免された過去の事例と同等の違法性・不当性があったとまではいえないでしょう。 裁判所は、「身近な司法」を目指しているなどと発信することがありますが、ある意味最も身近な裁判官だった岡口裁判官を罷免する判断は、司法を遠くのものにしてしまったのではないでしょうか。 (髙橋裕樹/弁護士)