〈悪魔と呼ばれる男〉トランプを裁くマーチャン判事とはどんな人物なのか、「民主主義の破壊者」トランプ支持者による暴動は起こるのか?
民主主義の破壊者
トランプ前大統領は6月2日の米FOXニュースとのインタビューの中で、7月11日に自宅軟禁ないし禁固刑が言い渡された場合、「国民が我慢するとは思わない。国民が受け入れるのは難しいだろう。どこかの時点で我慢の限界を迎える」と語った。 国民とは全国民ではなく、トランプ支持者を指す。トランプ前大統領は支持者による暴動を示唆したのだ。上記の発言を聞いたトランプ支持者が、トランプ氏は暴動の準備を促していると解釈しても無理はない。 2020年米大統領選挙におけるバイデン副大統領とのテレビ討論会で、トランプ大統領(共に当時)は極右団体プラウド・ボーイズに向かって、準備を整えておけという意味を込めて「下がって待機せよ」と明確に伝えた。 これらのトランプのメッセージをわれわれは、深刻に受け止めなければならない。というのも、米国民の中に、暴力を正当化する国民がいるからだ。米公共ラジオ、公共放送およびマリスト大学(東部ニューヨーク州)の全国世論調査(24年3月25~28日実施)では、「米国人は米国を正しい軌道に修正するために、暴力に訴えなければならないかもしれない」という声明に対して、全体で20%が「支持する」と回答した。党派別にみると、共和党支持者は28%が「暴力容認派」であった。 トランプ前大統領は、自分が今回の大統領選挙で敗れれば、「流血の惨事になる」と警告した。共和党支持者内の暴力容認派である約3割が、トランプ前大統領の暴力を示唆する発言の意図をくみ取り、実際に暴力に訴えるかもしれない。 また、もう1点「我慢限界点」の発言で、指摘したいことがある。それは、トランプ前大統領が量刑を言い渡すマーチャン判事に「圧力と脅し」をかけたことだ。自宅軟禁ないし禁固刑を出せば、暴動が発生し、米国社会が混乱する――その責任は、すべてマーチャン判事の量刑にあることになると、トランプ氏は言いたいのだ。 21年1月6日に発生した米連邦議会議事堂襲撃事件では、トランプ支持者はマイク・ペンス副大統領(当時)を絞首刑にするように呼び掛ける言葉――「ハング・ペンス」を連呼しながら、ペンス氏を探し回った。ペンス氏は、トランプ前大統領から選挙結果の認定の手続きを覆すように迫られたが、それを拒否していた。議事堂内にいたペンス氏と家族は、警護スタッフの誘導で辛うじて難を逃れた。 マーチャン判事がトランプ前大統領に禁固刑を言い渡せば、暴動が起き、トランプ支持者が「ハング・マーチャン」を連呼する――マーチャンの身に何が起こるのか。トランプ前大統領にはマーチャン判事に暴動を連想させ、自宅軟禁と禁固刑を阻止する狙いがあると言ってよい。 ただ、バイデン大統領と同様、マーチャン判事はトランプ前大統領を怖がっていない。 さらに、トランプ前大統領の「我慢の限界点」発言は、民主主義の屋台骨である「司法」「行政」「立法」の三権分立を揺るがす重大発言であると言える。トランプ前大統領は確固たる根拠なしに、バイデン大統領が司法機関を利用してトランプ氏を起訴したと訴えている。 しかし、トランプ前大統領のこの発言こそが、支持者を利用して暴力に訴え、裁判関係者を脅し、自身の支配下に司法機関を置くという極めて危険な思考に基づいたものである。民主主義を破壊する行動と解釈することが可能だ。