〈悪魔と呼ばれる男〉トランプを裁くマーチャン判事とはどんな人物なのか、「民主主義の破壊者」トランプ支持者による暴動は起こるのか?
世論は収監の可能性をどうみているのか?
トランプ前大統領は、収監されるのだろうか。間違いなく、選挙の行方を左右する要因の一つである。一般の国民が「収監」に影響を与える訳ではないが、世論調査がどのような結果を出したのか簡単にみてみよう。 英誌エコノミストと調査会社ユーガブの全国共同世論調査(24年6月2~4日実施)によれば、44%が「収監されない」、23%が「決して収監されない」と回答し、合計で67%がトランプ氏の収監の可能性が低いという考えを示した。党派別では、民主党支持者68%、無党派層63%、共和党支持者70%(いずれも「されない」と「決してされない」の合計)であった。 トランプ前大統領は34の訴因(重罪)全てで、有罪となった。ニューヨーク州は重罪(felony)をランクA~Eに分類しており、トランプ前大統領の業務記録改ざんは、最も罪の軽いEに属する。ランクEでは、通常最短1年以上から最長5年以下の禁固刑が言い渡される。 では、トランプ前大統領の量刑はどうなるのか。単純に罪を足すと禁固136年になるが、米有力紙ワシントン・ポストは、罪をまとめて最短16カ月から最長4年間と報じている。
かん口令違反を続ける意図
以上は、直接の裁判に関することであるが、裁判プロセスを通じて、トランプ前大統領は意図的に裁判批判をして、この裁判の不公正さを支持者に訴えてきた。それに対して、マーチャン判事はかん口令を出したが、トランプ氏は意に介さず批判を繰り返した。 例えば、トランプ前大統領は、マーチャン判事、判事の娘およびアルビン・ブラッグ検事など裁判関係者を、自身の公式のSNSや演説で、激しく非難した。マーチャン判事の娘は、民主党への政治献金を集めているからだ。 また、米CNNによれば、マーチャン判事は前回の米大統領選挙で、民主党に35ドル(約3700円 当時の年間平均のレート1ドル107円で計算)の政治献金をし、内15ドル(約1600円 同上)をバイデン候補(当時)に献金した。トランプ前大統領は、同判事を「腐敗した判事」および「利益相反の判事」とレッテルを貼って攻撃をしている。 マーチャン判事は、かん口令を無視し、裁判関係者を公の場で批判し続けるトランプ前大統領に対して、4月30日9000ドル(約141万円 1ドル156円で計算)の罰金を課した。さらに、トランプ氏に対して、かん口令を破り続けると「収監のリスクがある」と強く警告を発した。 有罪評決を受けても、かん口令は有効であったのにもかかわらず、評決の翌日、トランプ前大統領はニューヨークのトランプワターで会見を開き、マーチャン判事を「悪魔」と呼び再び批判を行った。 トランプ前大統領に反省の色は全くない。なぜ、トランプ氏は、裁判長であるマーチャン判事に敬意を示さず、かん口令を破って、裁判関係者を繰り返し批判するのか。 第1に、支持基盤の結束を図る意図がある。それは、裁判自体が「魔女狩り」「政治的迫害」並びに「バイデンが司法機関を使って仕組んだもの」であると、支持者に信じさせる必要があるのである。 第2に、司法の権力に対抗する「強い人間」を演出している。トランプ氏は20年米大統領選挙の結果認定の手続き妨害など4件で起訴されたとき、支持者に向かって「私はあなたのために起訴された」と語った。支持者のために戦うというメッセージを発信したのだ。 有罪評決後、トランプ前大統領はUFC(総合格闘技)の試合を観戦した。ここでも格闘技が好きな支持基盤に、司法と戦うというメッセージを送った。 第3に、第2と関係があるのだが、トランプ前大統領は16年米大統領選挙で使用した「沼(swamp)」と戦っているというイメージを強化している。比喩であり陰謀論とも捉えることが可能なこの「沼」は、政府内にある「闇」を指し、トランプ支持者の間に広く浸透している。