フェンシング男子エペ団体金メダリスト・山田 優選手「母子家庭で大変ななか続けさせてくれた母に感謝。始めたきっかけは、いじめっ子に勝つため」
金メダリストへ導いた母のサポート
–お母さまはフェンシングを続ける中でどのようなサポートをされていましたか? 山田選手:良くも悪くも「行きなさい、続けなさい」と言い続けてくれたことですね。練習に行きたくなくてお腹が痛いなどと嘘をついても、すべて見破って、連れて行ってくれたのが何よりのサポートだと思っていて。もしあのとき「お腹痛いんだね。休もう」なんて言われてたら、僕は強くなれなかったと思います。 母子家庭なので金銭的にも大変だったと思います。海外遠征などもあり、同じくフェンシングを続けていた姉と二人分の費用を用意し続けるのは大変だろうと思い、大学時代にフェンシングをやめようと思ったことがありました。姉も強かったので、僕がフェンシングを辞め、働いて姉のサポートをしようと考えたんです。ところが、母に伝えると「私の生きる楽しみを奪わないで!」と怒られました。サポートし続けてくれた母には本当に感謝しています。
金メダリストが語る、フェンシングの魅力とは?
–フェンシングの魅力について教えてください 山田選手:フェンシングの魅力は、なんと言ってもあの一瞬の駆け引きと、突いたときの感覚がたまらないんですよ。 剣の先端には相手を突いた時にわかるようにスイッチがついていて、750グラムの力で押されると光る仕組みになっています。極めていくと指先と同じように動かせるようになるので感覚が研ぎ澄まされます。 –集中力やメンタルトレーニングで取り入れていることはありますか? 山田選手:集中力を高めるためにやってることと言えば、ゲームですかね。試合中は、緊張してる状態よりも、楽しいと思えるくらい気持ちに余裕があるときの方が良いパフォーマンスを発揮できるので、試合の合間にゲームをすることもありますよ。 メンタルのトレーニングで言えば、自分と対話をするようにしています。自分自身を客観視して、スマホのメモに気がついたことを書いて振り返っています。
子どもたちに「自分もトップアスリートになれる」と感じて欲しい
–これからの活動について教えてください 山田選手:フェンシングの魅力を多くの人に知ってもらうための活動をしていきたいです。現在、全国にフェンシングができる場所を増やすために体験会を開催していて、今後はフェンシング教室を展開していけたらいいなと思っています。 地元(三重県鳥羽市)では、小学生から中学生に向けの「山田優杯」を開催しています。せっかくなら参加者に楽しんでもらえる大会にしたいなと思い、イベントの内容は全て自分で考えています。参加した子どもたちの、友だちづくりの場にもなったら嬉しいです。 –フェンシングに向いている子の特徴などは、ありますか? 山田選手:剣やチャンバラに興味を持っている子ですね。子どもって、長い棒や剣で遊ぶのが好きだと思うので少しでも興味があれば挑戦してみてほしいですね。 フェンシングは集中力や観察力が身につくので、そういった部分を伸ばすためにもおすすめです。 -今後、挑戦したいことはありますか? 山田選手:いま一番やりたいのは、トップアスリートと子どもたちが交流できる運動会です。例えば、僕はフェンシングでは金メダルを獲ったけれど水泳は苦手で最近やっと泳げるようになったんです。トップアスリートは遠い存在のように思えるかもしれないけれど、たまたまその競技が得意だっただけで、普通の人なんだよというのを子どもたちに知ってもらう機会をつくりたいと思っています。 交流のあるさまざまな競技の選手に声を掛けて、子どもたちとチームを組み、かっこいいところだけではなくかっこ悪いところも見てもらって(笑)。トップアスリートは特別ではなく、自分も頑張ればできるかもしれないという可能性を子どもたちに感じてほしいです。 【お話を聞いたのは・・・】 山田 優|フェンシング選手 日本大学在学中の2014年に世界ジュニア選手権で日本人として初優勝。2019年にはアジア選手権で優勝、2020年にはハンガリーで行われたグランプリ大会で優勝を果たす。国際大会で結果を残し、国際フェンシング連盟が定めるオリンピック出場に向けた個人ランキングでは日本勢最上位の4位につけ、個人戦の出場枠を獲得。2020年東京オリンピック(2021年開催)では、男子エペ団体に出場し、金メダルを獲得。また同大会の男子エペ個人では6位入賞を果たす。2024年パリオリンピックでは、男子エペ団体で銀メダルを獲得。
写真/黒石あみ 取材・文/やまさきけいこ