一流の調教師はどこを見て馬の調子を判断するのか
黒木)馬はどのように選んだのですか? 矢作)前に引退された方から引き継いだ馬も多かったのですが、事前に牧場を回って馬主さんにお願いし、何頭も買ってきました。 黒木)周りのスタッフも年配の方が多く、それでも「絶対に稼ぐのだ」という心意気だったと聞きました。 矢作)厳しいスタートで、外から見たら確かにそうだったのですが、自分には夢と希望しかなかったので、前だけを向いていました。それがよかったのか、みんな私より年上のスタッフだったのですが、若造の言うことをよく聞いて頑張ってくれて、初年度から成績を上げることができました。 黒木)初年度から? 矢作)最初は血統的にも馬体的にも、上のクラスのG1と言われるようなレースに出せる馬はいなかったので、地道に下のクラスで積み重ねていった経緯があります。 黒木)スタッフの方にも厳しく指導されているという記事を読みましたが、「馬の気持ちがわからないのに、人の気持ちがわかるわけがない」という。その辺りの馬とのコミュニケーションについても……。 矢作)馬は感情を持った生き物なので、コミュニケーションは大事です。人間の考えていることは馬もわかるのだと思います。少なくとも「わかっていない」と思っていては、育てることができません。人間が怒っていたり機嫌が悪かったりすると、馬も沈んだ気持ちになるではないですか。やはり人間が明るくハッピーになり、「明るくコミュニケーションを取って、楽しく調教してレースに出る」ということをモットーとしています。 黒木)そうすることによって、馬もいい意味で成長していけるのですね。しかし、馬は走ってみないと、調子がいいか悪いかはわからないではないですか。 矢作)体、目の輝き、毛艶ですね。あとは飼葉という食事をたくさん食べられるかどうかも大事です。 黒木)いろいろと大変だからこそ、やりがいや夢があるのですね。 矢作)競馬は10回に1回しか勝てないようなスポーツなので、勝ったときの喜びは大きいです。それも私1人ではなく、騎手や馬主さん、スタッフみんなで共有できる喜びであり、そのためにみんなで頑張るのです。