石橋静河×稲垣吾郎×内田有紀の共演は必見 『燕は戻ってこない』が放つSFのようなリアル
ドラマ10『燕は戻ってこない』(NHK総合)が4月30日よりスタートする。 本作は、桐野夏生による同名小説をNHK連続テレビ小説『らんまん』の長田育恵が脚色を担当し映像化したノンストップ・エンターテインメント。お金も夢もない29歳のリキ(石橋静河)、元トップバレエダンサーで、自らの遺伝子を継ぐ子を望む基(稲垣吾郎)、その妻で、不妊治療をあきらめた悠子(内田有紀)。それぞれの欲望が、「代理出産」を通じて交差する模様が描かれていく。放送を前に4月12日に開かれた出演者会見、さらに事前番組『作家・桐野夏生の世界 ~ドラマ「燕は戻ってこない」の魅力~』を元に、本作の魅力を解説していきたい。 【写真】稲垣吾郎×内田有紀が演じる不妊に悩む夫婦 まず、出演者会見で印象的だったのが、主人公・リキを演じる石橋静河の「普通の女の子」「隣にいる人」の物語という言葉だった。リキは地方からキラキラした東京へと上京してくるが、現実は非正規雇用による低収入。腹の底から金と安心を求めていた。 そんなリキに同僚のテル(伊藤万理華)が「卵子提供」のアルバイトを持ち掛ける。そこからリキは生殖医療エージェント「プランテ」に登録し、代表の青沼(朴璐美)から代理出産を提案される。報酬は最低でも300万円。石橋は印象的だった撮影にリキとテルとのシーンを挙げていたが、それが“外食”として向かうコンビニのイートインでの会話というのも現代の日本が抱える若者、女性の貧困のリアリティを描いている。 稲垣吾郎が会見で例えていたように、一見すると「SFの世界のよう」でありながら、今必死に生きている女性たちの立場、言葉にならない思いを表現した作品である。 『作家・桐野夏生の世界』を観ていてハッとしたのが、桐野が話していた「怒り」という感情だ。筆者はすでに試写にて第1話を観ているが、確かにリキはやり場のない怒りを抱えている。そういった積もり積もった感情に突き動かされるようにして、リキは一線を超えていくが、本能のままに生きていく、言葉を選ばずに言えば“隣にいそうな”女性を石橋は芝居として自然に体現している。 そんなリキと対象的に描かれるのが、基と悠子の夫妻。基は元トップバレエダンサーで自分の遺伝子を残したいという欲望、不妊治療の末、子供を持つことを諦めた悠子は、代理出産という夫の選択に揺れ動いていく。自分の欲望のままに代理出産を進めていく基は少々空気の読めない、稲垣としては珍しく嫌なイメージの役でもあるが、バレエダンサー役としては稲垣の身体能力の高さが存分に生かされてもいる。草桶家には見事な跳躍を見せるバレエダンサーとしての写真が飾られており、第2話以降も稲垣の身体の柔らかさが堪能できるシーンが「ふんだんに出てきます」と内田有紀が明かしている。 内田としては押し殺していた感情をいつ爆発させるのか、リキや基とはまた異なる一線を超える瞬間が見どころではあるが、稲垣との夫婦役というのも注目ポイントである。幼い頃からバラエティ番組で共演してきた稲垣と内田は、意外にも芝居の面では今回が初共演。会見中は内田が「稲垣くん」と呼ぶなど、夫婦役として仲睦まじい関係になっていることが伝わってくる雰囲気に、撮影が別のことが多い石橋が羨ましそうに見ていたのが印象的であった。第1話時点でも2人の芝居の相性は抜群だが、第2話以降もその掛け合いに期待が持てる。 全10回で描かれる『燕は戻ってこない』にはほかにも、基の母で国際的バレリーナの千味子を演じる黒木瞳や女性用風俗で働くセラピスト・ダイキ役の森崎ウィン、リキが働いていた老人ホームの元上司・日高役の戸次重幸などが物語に華を添える。デリケートで複雑なテーマの作品であるが、劇中に出てくる「エッグドナー」「サロゲート・マザー」といった言葉が近い将来聞き慣れた言葉になっている、そんなリアリティを感じさせるドラマでもある。
渡辺彰浩