羽生が立ち向かう6分間練習のトラウマ
6分間練習の恐怖感以外には、今度こそ4回転ジャンプを成功させたいという焦りも見られた。昨シーズンまでの6分間練習では時間を余してリンクから引上げることの多かった羽生だが、今回のフリーの演技前はブライアン・オーサーコーチが手で合図をして「もういいぞ」という指示を出した後も、自らの判断でもう一度4回転を跳んでいた。負傷前の中国杯も含めて成功していない4回転に対する不安を消したいがために、一本でも多く跳びたかったのだろう。 実は羽生は、5位と大きく出遅れたショートプログラムの演技の後、スタートポジションに立ったときに何を考えていたかと聞かれ、「6分間練習でトゥループのダブルをやっていなかったな、と頭に浮かんだ」とも話していた。フリーこそは、やり残しのある状態で本番を迎えたくないという気持ちも強かったに違いない。 NHK杯で4位に終わった羽生だが、他の選手の結果によってGPファイナル出場権をギリギリで手にすることはできた。2週間後にスペイン・バルセロナで行われるGPファイナル連覇は今シーズン前半の目標としてきたこと。準備期間は決して長くないが、「考えて見ればNHK杯は5日間しか練習せずにここまでやったので、次は時間があると思う」と強気だ。 GPファイナルに向けて、2週間で克服すべきことは何か。NHK杯を終えた今、浮き彫りになっている課題の一つはジャンプの修正。加えて、羽生の告白で明らかになったのが、6分間練習の恐怖感との戦いに勝つことだ。 メンタルの修正は、ときに技術的な課題以上に難しいことがあるが、ここでヒントになりそうなのが、羽生とは反対の思考で6分間練習に臨んでいる無良崇人の考え方だ。 NHK杯フリーで羽生と同じ最終グループで6分間練習をした無良は「僕は普段から6分間練習中も他の選手の練習を見ているので、昨日の羽生君の演技も見ていて、完璧だなと思っていた。6分間練習では集中することも必要だが、周りを見る余裕も必要だと思っている。周りが見えているときは自分が落ち着いていると思っている」と言う。集中することだけで解決できないときは、逆転の発想を持つこともありだろう。 羽生自身は「ビビリは間違いなく解消されていく」と自信を見せている。精神力の強さは折り紙付きの金メダリストはこの壁をいかに乗り越えていくか。GPファイナル優勝はここにかかるところも大きい。 (文責・矢内由美子/論スポ、アスリートジャーナル)