マンUにあってマンCにはなかったもの。マンチェスター・ダービーの明暗を分けた”差”【分析コラム】
プレミアリーグ第16節、マンチェスター・シティ対マンチェスター・ユナイテッドが現地時間15日に行われ、1-2でアウェイチームが劇的な逆転勝利を収めた。この勝利の立役者は決勝点を決めたアマド・ディアロだろう。ただ、勝ち点「3」を獲得できたのは彼一人の力だけでなく、マンチェスター・シティを遥かに凌駕する「質」があったからに他ならない。(文:安洋一郎) 【動画】マンチェスター・ダービー ハイライト
●マンチェスター・ダービーは劇的な幕切れ “ファギータイム”。長期政権を築いたアレックス・ファーガソン監督の下で、マンチェスター・ユナイテッドは「カンプ・ノウの奇跡」として知られる1998/99シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝を筆頭に、試合終盤の大逆転で数々の勝利を掴んでいた。 11月に発足したばかりのルベン・アモリム新体制になってから初めてのマンチェスター・ダービーでも、クラブの伝統である“魔法の時間”が訪れた。ビハインドの展開から88分と90分に、立て続けにゴールが生まれて劇的な幕切れを見せている。 勝利の立役者は88分のPK獲得と決勝点を決めたアマド・ディアロで文句ないだろう。指揮官も「アマドは、もちろん私たちにとって非常に重要だった」と、2点に絡んだ22歳の若武者を褒め称えた。 ただ、その前後には「(この勝利は選手たちのおかげだ。ベンチにいた選手も含め、チームの雰囲気は良かった。しかし、私は個人について話したくない)アマドは、もちろん私たちにとって非常に重要だった。(しかし、チーム全員がよくプレーした。それが私たちにとって重要だ)」という言葉が付け加えられており、チーム全員で掴んだ勝利であることを強調している。 アモリム監督が語ったように、この勝利はディアロ個人だけでなく、チーム全員で勝ち取ったものだ。というのも、この試合においては、勝者と敗者の間に明確な「差」があった。 ●明暗分かれた最終ラインの安定感 その「差」とは守備の安定感だ。試合を通して、ディフェンス面のクオリティを示し続けたマンチェスター・ユナイテッドに対して、マンチェスター・シティの守備は組織性のない“ずさん”なものだった。 マンチェスター・ユナイテッドは、この試合に向けてマーカス・ラッシュフォードとアレハンドロ・ガルナチョの両名がメンバー外に。2列目のレギュラー候補が2人いなくなったことで、これまでの試合では[3-4-2-1]の右ウイングバックで出場していたディアロが一列前に入り、3バックの一角で出場していたノゼア・マズラウィがスライドする形で右WBのポジションに起用された。 モロッコ代表DFが抜けた3バックには、ベンチスタートが多かったハリー・マグワイアが先発に抜擢されている。このイングランド代表DFを3バックの中央に置き、左にリサンドロ・マルティネス、右にマタイス・デ・リフトという形で試合をスタートさせた。 結果論ではあるが、アモリム体制では初の同時起用となったこの3バックの人選が勝利を手繰り寄せた。 ●ずさんだったマンチェスター・シティの守備 一方のマンチェスター・シティは最終ラインに怪我人が多発しており、この試合に向けてはナタン・アケとマヌエル・アカンジがメンバー外に。ジョン・ストーンズはベンチにこそ入ったが、先発出場できるコンディションではなく、リコ・ルイスもクリスタル・パレス戦で2枚のイエローカードを受けたことによるの退場処分のため今節は出場できなかったことから、左サイドバックには本職が中盤のマテウス・ヌネスが起用された。 この急造4バックは相手の攻撃に耐えられるほど盤石なものではなかった。 マンチェスター・ユナイテッドの得点シーンは、1点目がヌネスのバックパスミスからのPK献上。2点目はヌネスと左センターバックで起用されたヨシュコ・グバルディオルの間でマークの受け渡しができなかったことと、GKエデルソンが飛び出してカバーできなかった2つのミスが重なった。 貧弱だったのは最終ラインの守備だけではない。前線からのプレスもほとんど機能しておらず、特にリサンドロ・マルティネスに対してはほとんど制限をかけることができなかった。 アルゼンチン代表DFのプレス耐性が高いこともあるが、パス成功率98%(60/61)とロングパス成功率85%(6/7)は自由にプレーさせすぎだろう。ディアロの決勝点も制限がないフリーのリサンドロ・マルティネスのフィードから生まれており、マンチェスター・シティからすると、出し手と受け手の両方に対する対応が曖昧だったところからやられるべくしてやられたと言える。 ●マンチェスター・ユナイテッドが参考にするべき前例 この劇的な逆転勝利は得点シーンがフォーカスされがちだが、マンチェスター・ユナイテッドの守備陣が2点目を取られなかったから生まれたことに他ならない。 失点シーンはディフレクションがある不運なものだったが、それ以外にピンチを迎えたシーンは皆無。3人のCBに加えて、自陣深くで構えた場面ではマズラウィとディオゴ・ダロトも最終ラインに吸収され、5枚の堅いブロックでマンチェスター・シティの攻撃を跳ね返し続けた。 マンチェスター・シティのエースであるアーリング・ハーランドは彼らに試合から消され続け、シュートは76分に放った1本のみ。そもそもオープンプレーからボックス内に進入を許してシュートを打たれたのは3本しかなく、いずれもDF陣がブロックしている。 その中でも大健闘をみせたのがマグワイアだ。4バック時ではアジリティの無さが露呈するが、3バックで周りにフォローがいれば壁となり、この試合では地上戦勝率で100%(4/4)を記録。空中戦でも大半の場面でハーランドを上回り、このままレギュラーに定着しても不思議ではない鉄壁のディフェンスを披露した。 この5枚の前では、マヌエル・ウガルテが潰し屋として奮闘。スポルティングCP時代の恩師であるアモリム監督の下で印象的なパフォーマンスを披露するウルグアイ代表MFは、高い危機察知能力と対人での強さで、何度もピンチの芽を摘んだ。 アモリム新監督は試行錯誤を続けている段階だが、この試合を見る限りは、まずは守備を重点的に整備することが名門復活の第一歩のように感じる。前線はラッシュフォードやガルナチョら、他の強豪と比較をするとタレントの質は物足りないが、守備陣には計算できる選手が多い。 直近で結果を残すための参考になりそうなのが2020/21シーズンのチェルシーだ。フランク・ランパード体制で守備が崩壊していたところを、2021年1月に就任したトーマス・トゥヘルが守備から立て直しを図り劇的に成績が向上。そのまま就任から半年足らずでCL優勝に導いた。 今季のマンチェスター・ユナイテッドはUEFAヨーロッパリーグ(EL)を戦っており、プレミアリーグで4位、もしくは5位以内に入る以外にも、EL優勝をすればCL出場権を獲得することができる可能性がある。まだリーグ戦は半分も消化していないため、カップ戦1本に絞る必要はないが、どこかのタイミングで勝負を仕掛けることも必要になるかもしれない。 (文:安洋一郎)
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