韓国の医政対立、時間は誰の武器でもない【コラム】
ファンボ・ヨン|論説委員
「二人同時に話さないでください。医療消費者である私に説明するものだと思って話してください」(緑色消費者連帯のユ・ミファ常任代表) 今月10日の政府と医療界の公開討論は、非常に奇怪なやり方で行われた。相互討論は禁止され、司会者に各自の立場を説明することのみが許されていた。衝突を避けるためだった。医学部増員に伴う騒動の勃発から8カ月を経てようやく医政の公開討論が実現したが、第三者を通じて対話せざるを得ないという現実にはあきれる。解決策がまともに議論されるはずがない。大統領室の社会首席は医学部2千人増員の必要性を、ソウル大学医学部の教授は医療費増加を招く医師増員の不当さを強調するばかりだった。これすらも、医療界内部では「医療壟断の主犯と野合する利敵行為」だとの反発が起きた。 秋夕(チュソク)の連休で救急医療の危機は峠を越え、医政は長いこう着状態に陥っている。長期にわたって平行線をたどってきた医政の対話は、これほどまでに難しいものになってしまった。幸い2つの医師団体が22日に与野医政協議体への参加の意思を表明したが、まだ越えなければならない山は多い。ひとまず手を上げたのは、医学部生の休学承認問題で足元に火がついた韓国医学部・医学専門大学院協会と大韓医学会だ。しかし、両団体は医療界全体を代表しているわけではない。対立の最重要争点である2025学年度の増員問題が解決されなければ、議論は空転する可能性が高い。 これまで対話と交渉が遅々として進まなかったのは、事態解決のために自らの大義名分を取り下げる意志が政府と医療界のいずれにもなかったからだ。事前の対策もなしに無理な増員を押し付けた政府は、2025学年度の大学入試随時選考が始まったことで、現実的に政策を退かせるのは難しくなっている。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領としては、支持率が低迷している中で、それなりに国民の支持を得てきた医療改革をあきらめるわけがない。医療界との対話に最善を尽くしていると主張しているが、最小限の危機管理をしつつ時間を稼ぐという意図が見え見えだ。今年8月にイ・ジュホ教育部長官が「6カ月だけ耐えれば勝つ」との趣旨の発言で物議を醸したが、実際にその通りにやってきたのかもしれない。 医師たちはどうか。大韓医師協会は指導部が弾劾の危機に立たされており、医学部の教授たちも専攻医の顔色をうかがって交渉力を発揮できずにいる。医療の空白を招いた当事者である専攻医たちは、少なくとも1年は復帰するつもりがなさそうにみえる。事態の初期には生計の負担に苦しんでいた彼らも、再就職してからは焦りが消えた。先月19日の時点で、辞職した9016人のレジデントのうち3114人(34.5%)が、開業医をはじめとする別の医療機関に就職している。急ぐ必要のない医療界は、意見をまとめるどころか、内部分裂と反目が深刻だ。 今年の医学部生の休学や留年に伴い、来年7500人が一度に教育を受けられるかが非常に懸念されるが、新学期だからといって全員復帰するともかぎらない。先日、教育部が来年3月の復帰を条件に休学を承認すると発表したことに対し、専攻医の代表は「復学どころか、来年の新入生も先輩たちに同調するはず」と警告した。専攻医たちも、来年3月に研修先の病院に戻ってこさせるためには、12月までに志願を済まさせなければならない。 対立が長引くほど、国民が払わなければならない代価も大きくなる。政府がその場しのぎの対策で医療の空白をかろうじて埋めていったとしても、患者の被害は増え続けていく。診断、手術、治療の遅延などによる可視化されない被害は、きちんと集計すらされていない。今年2月から6月にかけて全国の上級総合病院でがんの手術を受けた患者の数は、1年前より16.3%も減少した。医師の数を増やそうという政策が逆に医師の輩出を妨げてしまった、という意図しない結果ももたらされている。今年の医師国家試験の実技試験の合格者は266人で、平年の10%ほどだ。来年の専門医資格試験の受験資格を持つ専攻医の数も、今年の20%程度にとどまる。業務負担が重くなっている必須医療分野の専門医が一人また一人と離脱していることによる影響も、そのまま患者たちにのしかかる。 始華湖(シファホ)開発や密陽(ミリャン)の送電線建設などのこれまでの社会的対立は、概して大きなコストをかけた後になってようやく政治的注目を集め、大統領や国会などの影響力の大きい第三者の圧力で対話の窓口が開かれてきた(慶熙大学のキム・グァング教授による「対立解消のための対話協議体形成の動因に関する研究」)。医療改革は、政府と医療界が解決するしかない。少なくとも、医師の数をどの機関がどのような根拠で決めるかについて、妥協案が出されなければならない。そのための特段の案がないと、与野医政の協議体が開かれても時間ばかりが浪費される可能性が高い。時間はどちらの武器にもなりえない。患者をさらに苦しめる凶器になるだけだ。医政ともに、その責任から自由にはなりえない。 ファンボ・ヨン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )