ヒオカ「フリーで在宅、時間が無限に溶けていく。〈時間の制約がある中でたまに訪れる解放感を自由と言う〉を実感」
貧困家庭に生まれ、いじめや不登校を経験しながらも奨学金で高校、大学に進学、上京して書くという仕事についたヒオカさん。現在も「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしている。ヒオカさんの父は定職に就くことも、人と関係を築くこともできなかったそうで、苦しんでいる姿を見るたび、胸が痛かったという。第59回は「制約がある幸せ」です。 * * * * * * * ◆仕事が在宅になった マニキュアを塗って2週間。色が剥げて、もはや爪の1/5くらいの面積になり、なんとも見苦しい。それでも、除光液で落とすのが面倒くさくて放置してしまう。以前なら考えられないことだ。 人目に触れることがなくなると、ここまでズボラになるのか。外に出るときも、上はパジャマのまま。ダウンを羽織れば見えないし。下はかろうじて、毛玉がない新しめのスウェットパンツに履き替える。そんな調子なので、お気に入りの服は箪笥のこやしになるばかりだ。最後に化粧したのはいつだったろうか。 昨年から完全フリーランスになり、仕事が在宅になった。それまでは、会社で働きながら副業としてライターをしていた。 兼業していた頃は、フルタイムで働いた後、家に帰ってからの時間、さらに休日を使って執筆の仕事をしていたので、休み時間がなく、常に時間に追われていたように思う。 完全フリーランスになればきっと時間の余裕も生まれて、執筆に専念できる。初めはそう思っていた。
◆時間が無限に溶けていく 実際在宅になると、出勤時間もコアタイムもなく、始業も終業も全て自分で決めなければならない。ワンルームの一角にある作業スペースでの仕事のため、生活のオンオフを切り替えるのがとても難しい。作業中、他のことに気をとられ、ダラダラと時間を過ごしてしまう。 何もしていないのにもう夕方、なんてこともよくあって、時間が無限に溶けていく。もちろん、それでは仕事が終わらないので、今度は根を詰めて仕事をするのだが、そうなると食事を忘れたり、夜中まで作業をしてしまって眠れなくなったり。生活リズムがめちゃくちゃになる。 在宅って究極に自己管理能力が試されるし、タイムマネジメントができないと詰む。むしろ、隙間時間を見つけて、限られた時間で全集中して仕事をしていた兼業時代のほうが、効率よく仕事をしていたように思う。 おはようからおやすみまで、ワンルームの部屋に閉じこもり、誰とも話さないような今の生活になって、ひしひしと感じること。それは「制約がある幸せ」だ。制約だらけだった会社員時代は、こんなことを思う日が来るなんて思ってもみなかった。