日米合作『RENT』のプリンシパル・キャストにインタビュー! Vol. 4 トム・コリンズ役を演じるアーロン・アーネル・ハリントン
トム・コリンズ役を演じるアーロン・アーネル・ハリントンはインタビュー中も聞きほれるような美声の持ち主、そして大の親日家。
――『RENT』20周年記念ナショナル・ツアーにトム・コリンズ役で出演、来日公演も経験されています。 そのときが初めての海外だったんだ。日本の美しい場所も見られたし、食べ物もおいしく、本当に貴重な経験だった。また来られてうれしいよ。日本の観客は本当にすばらしかった。12月31日22:15開演の“ニューイヤーカウントダウン公演”という、実際に年が変わる瞬間と、『RENT』の物語の中で大晦日から年が変わる瞬間とを重ねた上演があって、クールだったよ。観客も熱狂的に迎えてくれてうれしかったな。 ――再度のトム・コリンズ役挑戦です。 前に演じたときは20代だったけど、それから歳を重ねて、人生のあれこれも経験して、トム・コリンズという男の才気をより深く感じるようになった。本当に頭のいい男なんだよ。そして、愛によって突き動かされる男でもある。そこに非常に共感する。自分の夢を、愛する人々と共に追い求める。30代になって、トム・コリンズの目を通して世界を見られるというのはすばらしいことだね。演じていて、自分がトムであり、トムは自分だと感じられる瞬間がたくさんあるんだ。 ――好きなナンバーやシーンは? まずは、ロジャー、ミミをはじめ、みんなが顔を揃える「Another Day」。「Santa Fe」は歌っていて本当に楽しいナンバーなんだ。そしてやっぱり、エンジェルが死んだ後のエモーショナルで心を締め付けられるような「I’ll Cover You (Reprise)」が大好きな曲だな。歌手として、そしてアーティストとしての自分の核を観客に示すことができるし、そうすることがふさわしいナンバーだと思っていつも歌っているよ。 ――『RENT』との出会いは? ニュージャージーに引っ越したばかりのころ、友人が2016年のツアーのオーディションの情報を教えてくれてね。それで受けに行ったんだけれども、アーティスト写真も、履歴書も、歌うための楽譜も何もない状態で。それってこの業界的には本当にありえないことなんだけれども(苦笑)。僕はアカペラで歌い、何とかきっかけをもらえて、それから作品のための踊りのレッスンなどに通い、最終的にトム・コリンズ役を獲得したというわけ。 ――そのお声を聞いていると、何だか非常に納得してしまうお話です。 ありがとう! 僕はもともとバンドや教会でドラムを叩いていて、カレッジではPRとマーケティングを専攻、趣味で演劇をやっていたくらいなんだ。そもそも歌うこと、演じることを仕事にしようと思ったのはだいぶ後になってからなんだよ。スターのバックバンドにドラマーとして入って世界をツアーして回ることを夢見ていた。 それが、今では何千人もの観客の前で、自分の歌を披露することができる。歌ったらいいんじゃないって勧めてくれた人がいたからなんだけど、人生おもしろいもんだよね。カレッジを卒業してからはミュージカル一本で、パーカッションで培ったリズム感覚を歌うことに発揮しているよ。 音楽は世界共通言語ってよく言うけど、僕の声を通して世界中すべての人とコミュニケーションをとることができる。そして、音楽は、歌っている僕自身から何かを引き出すだけではなく、それを聞いている人の中からも何かを引き出していく。僕が歌った歌詞を聞いて誰かが涙を流したり、流れたメロディによって誰かが笑ったり、そんなすばらしいことは他にないと思っていて。そうやって、誰かの生活、感情のムードを変えることができる。それを仕事としてできるなんて、非常に光栄なことだと思っているよ。ミュージカルほどすばらしい仕事はないよね。 ――『RENT』という作品の魅力についてはいかがですか。 1990年代に作られたミュージカルだけれども、今日にも通じる普遍性があると僕は思っていて。この作品で描かれているのはAIDSのエピデミックだけれども、今日に起こっている諸問題及びその諸問題に対する我々のさまざまな対応と置き換えて考えることもできる。『RENT』の作詞・作曲・脚本を手がけたジョナサン・ラーソンの描き方、とりわけ戯曲、言葉には非常に時を超えるものがあると思っていて。初演当時の1996年に問題だったことは、2024年の今もまだ問題として存在している。 その解決策の根幹にあるのは、“愛はすべてに打ち勝つ”という強い思い、そしてコミュニティの存在が人を支えるという事実だ。今日でもまだ我々の社会には警官による無辜の市民への暴力事件などが存在する。生きづらさを抱える人々は多い。パンデミックを体験したばかりということもある。明日生きるか死ぬかわからないという経験をした人も多いと思う。そういうつらい時期をやり過ごすには、家族、そしてコミュニティで支え合うことが非常に大切になってくるよね。1990年代とはもちろん社会的、政治的状況は異なるけれども、今日でもそういった状況は存在している。だから、この作品は上演し続けられていくと思う。芸術は人生を映し出すものだし、我々アーティストは芸術を通じて自分自身を表現することができるんだ。 ――そもそも『RENT』との出会いは? 映画版を観たのと、MTVで「Seasons Of Love」のミュージック・ビデオがよく流れていて、好きだったから、姉妹と一緒に歌ったり踊ったりしていて。でも、曲のもつ真の意味やパワーを子供のときは理解していなかったと思う。2015年、カレッジを卒業したころに、『RENT』という作品のもつ重要性や歴史的意義を知ることになったんだ。さまざまな要因によって、非常に人気の高い、豊かな歴史をもつ作品だよね。 ――今回は日米合作プロダクションです。 山本耕史もクリスタル ケイも、これまで一緒に仕事をしてきた人たちの中でもっとも心優しい魂の持ち主だよ! 耕史が英語上演に挑んでいる姿は非常にクールだし、彼の作品に対する姿勢、マークの演技を見ていると、こちらもさらに意欲が湧いてくるところがあって。クリスタルも愛らしくて才能にあふれていて、魅力的だ。そしてふたりとも人間性がすばらしい。2016年に来日したとき、日本が大好きになったけれども、ふたり、そして日本のカンパニーの人々の優しさによって、日本がますます好きになっていっているよ。 ――日本の観客へのメッセージをお願いします。 また日本で公演できて、本当にうれしいよ。文化も食べ物も大好きで、語り出したら止まらないくらいだし(笑)、何度でも言うけれども、人々の優しさに本当に感謝していて。これを最後の日本公演にしたくない。日本に来て公演できることを自分の人生の使命だと考えて、これからもまた何度もやって来たいと考えているよ。 取材・文=藤本真由(舞台評論家) <公演情報> 日米合作 ブロードウェイミュージカル『RENT』 脚本・作曲・作詞:ジョナサン・ラーソン 演出:トレイ・エレット 初演版演出:マイケル・グライフ 振付:ミリ・パーク 初演版振付:マーリス・ヤービィ 音楽監督:キャサリン・A・ウォーカー 出演:山本耕史、Alex Boniello、Crystal Kay、Chabely Ponce、Jordan Dobson、Leanne Antonio、 Aaron A. Harrington、Aaron James McKenzie ほか ※全編英語上演(日本語字幕あり) 【東京公演】 日程:2024年8月21日(水)~9月8日(日) 会場:東急シアターオーブ 【大阪公演】 日程:2024年9月11日(水)~9月15日(日) 会場:SkyシアターMBS