観る準備はOK?最新作に向けてSF大作『デューン』の世界観と物語をおさらい
1965年にアメリカ本国で発表され、高い評価を得たフランク・ハーバートの描く壮大なSF小説「デューン 砂の惑星」。「世界で最も売れたSF小説」と言われる傑作ながら、その長大な物語と政治、宗教、テクノロジー、劇中世界の生態系などが複合的に絡み合う設定と描写により、イメージ通りの映像化が困難な作品とされてきた。それを『メッセージ』(16)、『ブレードランナー 2049』(17)などの叙情的で評価の高いSF映画を多数手掛け、壮大な映像美で作品世界を創出してきた映画監督のドゥニ・ヴィルヌーヴがメガホンをとり、『DUNE/デューン 砂の惑星』(20)として映画化。デューンと呼ばれる惑星の存在感と独自のテクノロジー、キャラクター像を見事に表現し、小説の前半部を描いた本作は高い評価を得た。その完成度の高さは、原作のファンはもちろん、今作で初めて「デューン」に触れた映画ファンをも魅了し、2022年の第94回アカデミー賞では最多6部門を受賞した。 【写真を見る】『デューン 砂の惑星PART2』でも大暴れ!アラキスの地中に巣食うサンドワーム こうした評価を受けて、作品に向けられた期待値がさらに高まるなか、続編となる『デューン 砂の惑星PART2』が3月15日(金)からいよいよ公開。そこで今回、最新作を観る前の復習として、前作を軸に知っておきたい物語のポイントや劇中の用語を振り返っていきたい。 ■希少な資源、スパイスを唯一採掘できる砂の惑星アラキス 『DUNE/デューン 砂の惑星』という作品は、大きく3つの基本要素で構成されている。そのなかでも最も重要な要素となるのが、物語のおもな舞台となる「デューン」の名で知られる砂漠の惑星アラキスの管理権だ。 劇中では、強大な権力を持つ宇宙帝国が世界の中枢を占めるものとして存在し、貴族の大領家連合の各家系が宇宙帝国所属下に置かれるそれぞれの惑星を統治する形で星間社会が形成されている。そして、この世界を成立させている最重要な物質が「スパイス」と呼ばれる希少な自然資源。スパイスは、人間の精神を拡張する特性を持ち、その力は人間の寿命を延ばし、高い思考力を与え、星間航行を行うことができるため、星間社会を存続させるのには欠かせない物質となっている。スパイスは、砂の惑星アラキスでしか採掘することができず、その管理権は長年にわたりハルコンネン家が保持してきた。 ■皇帝とハルコンネン家の陰謀にハマるアトレイデス家 こうした状況を踏まえて、もう1つ重要な要素となるのが、宇宙帝国と大領家連合内における覇権争いだ。連合のなかでも大きな力を持ち、慈悲深い領主のレト・アトレイデス(オスカー・アイザック)に統治されて平和な社会を形成するアトレイデス家は、その理想的な統治の在り方から、現帝国の大王皇帝であるシャッダム4世にとっては自分の地位を揺るがす脅威になりかねない存在になりつつあった。そして、アラキス統治のために原住民族を弾圧する恐怖政治を敷いてきたハルコンネン家にとっても、価値観の異なるアトレイデス家は宿敵とも言える関係にあった。 帝国の覇権を維持するため、皇帝はアトレイデス家を失脚させるための大がかりな罠を仕掛ける。それが、アトレイデス家へのアラキスの管理権の移譲だった。大きな富を生む管理権の移譲をきっかけに、それに反対するハルコンネン家による攻撃の口実を作り上げ、アトレイデス家滅亡の計画が敷かれるのだった。 ■フレメンたちが信じる“救世主”の片鱗を見せるポール そして、この2つの大きな社会背景のもとに描かれるのが、主人公であるポール・アトレイデス(ティモシー・シャラメ)の物語だ。ポールは、アトレイデス家を統べるレトの息子にして、家を継承する存在。母親は不思議な力と独自の宗教感を持ち、宇宙のバランスを維持するため為政者に仕えてきた女性だけの組織ベネ・ゲセリットの一員であるレディ・ジェシカ・アトレイデス(レベッカ・ファーガソン)。母の教育によって、ベネ・ゲセリットが持つ特殊な能力を発揮する力を得つつあったポールは、ある夢を見続けていた。それは、まだ行ったことのないアラキスに住む先住民族のフレメンと交流し、彼を導く謎の女性チャニ(ゼンデイヤ)と出会い、共に行動するというものだった。 ポールは、この予知夢とも思える夢に導かれるように、アラキスへと旅立つ。そして、勃発した帝国とハルコンネン家による陰謀によって、母ジェシカと共に戦闘に巻き込まれていくことになる。このポールの逃亡劇が、1作目の大きな見どころとなるのだ。 アトレイデス家の継承者であるため、ハルコンネン家にねらわれるポールは、母と共に領地から脱出し、フレメンたちの元へと向かう。その手助けをしてくれたのは、フレメンでありながら帝国の監察官としてアラキスの生態系の研究をしていたリエト・カインズ博士(シャロン・ダンカン=ブルースター)。彼女はフレメンに大きな理解を示し、ベネ・ゲセリットの能力を持つポールをフレメンの伝説に登場する救世主=マフディーではないかと感じたからこそ、本来は静観者でなければならない立場ながら、自身の身を犠牲にしてもポールを逃がしたのだった。 ■砂漠に適応して生きるフレメンと自然の脅威と同等の存在、サンドワーム 物語の流れとしては、この3つの要素を抑えておけばいいが、本作はそれ以外にも重要な注目ポイントがある。それは、アラキスの生態系とそこに暮らすフレメンの存在だ。砂で覆われた惑星であるアラキスの環境は厳しく、日中の気温は摂氏60度を超える高温で、激しい砂嵐が吹き荒れる。そのため、生身では2時間程度しか生きることができない。さらに地表には、惑星を守るかのように最長400メートルにもおよぶ巨大生物、砂虫=サンドワームが多数生息している。サンドワームは規則的な音に反応し、その巨体で周囲の人間や重機を飲み込んでしまうため、アラキスにおける自然の脅威とも言える存在だ。 フレメンはそんな過酷な環境で生き抜くために、汗や尿などから出る水分を逃がさずに溜め、精製して真水に変える機能を持つ保水スーツを着用。さらに彼らはサンドワームを制御する術を持ち、独自の文化やしきたりを継承して生きてきたが、ハルコンネン家によって迫害されて暮らしている。彼らが虐げられている状況を救うとされる“マフディー”の存在が待ち望まれるなか、その可能性を持つポールとの邂逅は、1作目の大きな注目ポイントとなっている。 ちなみに、原作小説である「デューン砂の惑星」は、多くのSF作品に影響を与えており、日本でも宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』(84)は、過酷な環境に住む民の存在や自然の意思のような王蟲などもその影響下から生まれたと言えるだろう。 こうしたバックボーンが緻密に描かれた1作目を踏まえ、続編『デューン 砂の惑星PART2』ではいよいよ劇中世界に大きな変革を与える戦いが繰り広げられ、マフディーと目されるポールの本格的な活躍、チャニと行動を共にする彼の運命が描かれる。前作をはるかに凌ぐスケールで迫る、その壮大な物語の行く末をぜひ劇場で目撃してほしい。 文/石井誠