ヒロイン役なのに「小道具のメンテナンス」まで対応した…話題の『侍タイムスリッパ―』沙倉ゆうのさんが語る「役者」兼「スタッフ」の苦労
キャストとスタッフ兼業の苦労
――役者さんによっては、自分の撮影シーンの合間に気持ちを作っていくという話もよく聞きます。沙倉さんはそんな時間もなかったように感じますが、気持ちの作り方はどうしていましたか? 沙倉初めのうちはやりにくかったです。台詞のひとつひとつが役の「山本優子」ではなく、普段の私がそのまま出ている気がしたりしていました。それでも撮影が進むうちに慣れてきて、後半はたとえ直前までスタッフとして動いていても問題なく役に入れるようになりました。ただクライマックスの夜の立ち回りシーンの撮影は切り替えが難しかったです。 この映画を語るうえで絶対に外せないのが最後の立ち回りだ。クライマックスであるにも関わらず盛り上げるようなBGMは一切なく、終始無音のなかに刀が擦れ合う金属の音だけが響く重厚なシーンだ。 沙倉クライマックスの立ち回りを撮った後に、私が演じる山本優子の印象的なシーンの撮影がありました。大事なシーンなので気持ちをしっかり作ろうと思って、(近くにいたらスタッフとして頼られてしまうから)立ち回りを撮っているみなさんから距離を置いて「あそこには入らんとこう」と。でもやっぱり声がかかる(笑)。「(刀の)竹光が禿げてきたから交換して」とか(笑)言って、私のところに持ってくるんですよ。次は大事なシーンやのに、私ヒロインやのに「もうっ!」ということがありました(笑)。 沙倉さらに私の後にも撮影が残ってたんで、あまり時間をかけられない。なのに直前まで刀の管理などスタッフの仕事をしていたら、やっぱり気持ちが入らない。時間も遅いし、疲れもあってか、監督もピリピリしていた時に、山口馬木也さん(主人公・高坂新左衛門)がフォローしてくれたんです。それが嬉しくて泣いてしまったり……。
宣伝や配給の予算がまったくなかった
――同じくインディーズ発からヒットに繋がり話題になった『カメラを止めるな!』(2017年公開)とよく比較されている記事を見かけます。配給や宣伝周りで『カメ止め』を意識した部分はありますか? 沙倉監督がどのタイミングで『カメ止め』を意識したかは分からないのですが、最初に上映場所どうするってなった時に、まずは池袋シネマ・ロサ(以降、ロサ)というのがありました。あの映画館には映画好きの人が集まるので、まずはそこで「面白い」と思ってもらいたい。だから最初はロサさんにだけ(配給のための営業資料を)送りました。 ――例えるなら、大学受験で本命1本勝負みたいな感じですね。私も稀に映画の宣伝や制作周りのお手伝いをすることがあるのですが、「少しでも多くの映画館で」という思いが一般的かと思います。特にインディーズだと、資料を送れるところには全て送ることも多いような印象があります。 沙倉安田監督と作った前作までは、(最初は)ちょっと大きな映画館を数館公開で始めたんですけど拡げるのが難しかったんです。今回も制作費でお金を使っちゃったので。宣伝や配給の予算がまったくなかった。作品を観たロサさんのインディーズ担当の方が「この映画をなんとか多くのお客さんに広めたい」と言ってくださったんです。「(上映期間を)1ヶ月、この映画用に空けるから」って。それで最初はロサさん1本、まずは1ヶ月。私も1ヶ月間東京に住んで、映画を見てくださった人にご挨拶をしにロサさんに通っていました。ロサのお客さんは本当にレビューが上手なんです。それが後押しになったと思います。 また<『侍タイムスリッパ―』で殺陣師の役を好演した「斬られ役歴60年」の峰蘭太郎さんの心にひっかかった「大御所俳優の言葉」>の記事では、『侍タイムスリッパー』で殺陣師の役を好演し、自身は斬られ役歴60年の峰蘭太郎さんに、その映画人生について語っていただいています。こちらの記事もぜひご覧ください。 本作の舞台となった「聖地・映画村」では年末年始イベント「ゆく年くる年えいがむら 2024 2025」の関連として、『侍タイムスリッパー』のイベントを開催中。2025年1月4日(土)・5日(日)には安田淳一監督、出演者の沙倉ゆうの、峰蘭太郎の豪華ゲストによるトークショーを2日間限定で開催! また、映画「侍タイ」没入スポットが2025年3月2日(日)まで登場し、映画に登場する関係者立ち入り禁止の東映京都撮影所内にある「警笛鳴らすな」を背景に記念撮影ができるなど、映画ファンにはたまらない催しとなっている。 特設サイト https://www.toei-eigamura.com/yukukuru2024/#sec10 沙倉ゆうの 未来映画社製作「拳銃と目玉焼」では薄幸のヒロイン、「ごはん」では主役を演じる。 米作り農家を描いた「ごはん」では2017年の公開まで4年、以降地方のホール等で公開が連続38ヵ月続く間を含め、のべ7年以上も行われた追撮に参加。その間、変わらぬ若さに皆が驚いた。本作では劇中で助監督優子役を演じつつ、実際の撮影でも助監督、制作、小道具などスタッフとしても八面六臂の活躍。 写真撮影 / 田中厚志(株式会社ズコーデザイン) 取材・執筆 / 近視のサエ子
近視のサエ子(音楽家・映像作家・ビジュアル表現者)