「つぶれないでしょ」緩んだ社員、税務署は疑惑の目 九州で10億本の「大ヒットご当地アイス」を引き継いで ~竹下製菓 後編
九州で累計10億本を売り上げた大ヒットアイス「ブラックモンブラン」を製造する竹下製菓(本社・佐賀県小城市)を2016年に継いだのは、創業家の5代目竹下真由社長だ。そして、「最強の右腕」である夫の雅崇副社長は、謎の覆面副社長だ。二人三脚で売上げを倍増させた2人に、大ヒット看板商品を持つ企業ゆえの「緩み」と事業承継について聞いた。 【動画】副社長、ブラックモンブランを覆面に使ってインタビュー
◆謎の覆面、副社長が顔出しNGの理由とは
今回の取材を受ける際、雅崇氏から一風変わった条件が出された。 掲載する顔を「ブラックモンブラン」のパッケージで隠すことだ。 顔出しNGの理由は何なのか。 「顔出しNGは仕事が理由です。覆面調査の仕事をしているので」と雅崇氏は明かす。 メディア出演も多い創業家の真由氏は、社内に顔バレしている。 このため、販売店やライバル商品の動向調査などに雅崇氏が出向くため、メディアに顔は出せないのだという。
◆「つぶれないでしょ」社員に緩み、税務署も驚きのロス
竹下製菓に入社した2人の目に映ったのは、大ヒット商品「ブラックモンブラン」を持つ企業ならではの緩みだった。 真由氏は、「社員みんな『まさか潰れないでしょう』という気持ちがすごく強かった」と振り返る。 特に問題となったのは、製造時のロス(廃棄)の多さだった。 アイスクリームの製造では、菌が検出されると製造中の商品を大量に廃棄しなくてはならない。 しかし、現場に菌の混入を防ぐ発想がなく、「しょうがないから捨てよう」「ロスは出るものだ」という受け止めだったという。 このロス量は、財務資料を見た税務署職員が「これ、(廃棄を過剰に計上することで)利益を調整していませんか?」と驚き、疑うほどだったという。 2人は、5~6年かけてロスを減らす取り組みを続け、企業の体質を改善していった。
◆売上げ倍増、積極的なM&Aの狙い
50年、ヒットを続けたブラックモンブランだが、この先の50年も同じように売れる保証などどこにもない。 少子化で「口」の数は確実に縮小している。 「従業員の生活を守るためにも、手を打っていかなければ生き残れない」と真由氏は、M&Aに乗り出す。 2020年、埼玉県のアイスクリームメーカー「スカイフーズ」、22年には生クリームパンで有名な岡山県の「清水屋食品」を買収した。 スカイフーズ買収は、災害時の生産拠点や、関東進出を見据えて「第2拠点」を作る目的だ。 清水屋食品は、新たな領域の商品を獲得する狙いがあった。 結果、真由氏は売上げを就任前の倍に押し上げた。