実質賃金〝いつ浮上〟するのか 25カ月連続マイナス、安定的なプラス転換へ…失業率低下とGDPギャップ解消が必要
【日本の解き方】 厚生労働省の毎月勤労統計で、実質賃金が25カ月連続でマイナスとなった。プラスに転換する時期はいつごろか。早期にプラス転換させるには、どのような施策が必要だろうか。 【グラフでみる】各国の名目GDP推移 まず、実質賃金に関する統計の特徴を述べよう。2023年の賃上げ率は3・58%(連合調査)であったが、同年の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は3・1%の上昇率で、賃上げ率の方が高くなっていた。つまり、普通の「実質賃金」はプラスだといえる。 しかし、しばしば報道等で紹介されている「実質賃金」は、厚労省が毎月勤労統計で公表しているものだ。ここでは「帰属家賃を除く総合」が物価指数として用いられている。 帰属家賃は上昇率がほぼゼロであるため、これを除くことで物価上昇率が高くカウントされている。日銀が物価の見通しに用いる「生鮮食品を除く総合」の値と比べても最近では0・5%程度高い値となる傾向がある。 1970年より前は、日本の消費者物価指数に帰属家賃は入っていなかった。しかし、持ち家比率は各国によって違うので、消費者物価の上昇率を国際的に比較するために、日本も帰属家賃を含む消費者物価指数に変更した。 他方、厚労省は、従来から実質賃金を旧来の消費者物価指数に基づいて計算していたため、継続性という観点から、この段階で消費者物価指数から帰属家賃を除くインフレ率を使って現在に至っている。ちなみに、経済分析においては、各国とも帰属家賃を含めてインフレ率を計算するのが普通である。 米国、英国、ドイツいずれも、直近(2023年など)の実質賃金の上昇率のプラス化を見ると、消費者物価上昇率の低下が先行する形で実現している。 さて、日本の実質賃金はいつプラス化するのか。 名目賃金上昇率と厚労省の毎月勤労統計での「インフレ率」との関係であるが、日銀のインフレ目標2%が達成されても、厚労省の毎月勤労統計での「インフレ率」は2・5%程度になり、実質賃金がプラスになるには、名目賃金上昇率が2・5%以上になる必要がある。しかし、岸田文雄政権では、名目賃金上昇率が2・5%以上となったのは、発足後31カ月中2回しかなく、これはちょっと望み薄だ。 日銀の「インフレ率」が1・5%まで下がれば、名目賃金上昇率は2%以上でよく、これは岸田政権でも7回あるので達成できるだろう。その時期は秋口か年内ではないだろうか。しかし、この「インフレ率」を下げての〝結果オーライ〟は、再びデフレに戻る危険もあるので、安定的に実質賃金プラスにはなかなかならないだろう。
やはり名目賃金上昇率は3%程度がほしい。そのためには、今の失業率2・6%が2%前半まで低下することが望ましく、少なくともGDPギャップ(潜在的な供給力と実際の需要の差)の解消が必要だ。筆者の試算では20兆円程度あるので、それを埋めるような減税その他の経済対策が即効策だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)