壁(11月7日)
11月はさながら「壁」の月。東西ドイツの「ベルリンの壁」が市民の手で壊され、9日で35年を迎える。飛び込んできた当時の映像は衝撃的だった。自由を求める民意が歴史を変えた▼話題の「年収の壁」は引き上がるのか。103万円を超えると、所得税が発生する。仕送りの負担を減らすため、アルバイトの回数を増やしたくても増やせない。親を思う学生の悩みのタネだ。人手不足の時勢に逆行するとの指摘もある。政府、与党は見直す方向で検討すると伝わる。岩盤の決まり事に、どこまで風穴があくか▼米国では「壁」にこだわるリーダーの勝利宣言が高らかに響いた。前任期中、不法移民の流入を防ぐためと、メキシコ国境を封じた。今度は、関税という名の壁で国民を守る。化石燃料への投資は増やすというから、囲いの中だけ、よそと異なる時間が流れるのだろうか▼壁に手を付けるのは、いいことずくめではないようだ。ベルリンの壁が撤去された当初、経済は不安定に。年収の壁のかさ上げで国の実入りは大幅に減るとされる。超大国が自分の殻に閉じこもる事態になれば、世界は揺らぐ。揺り戻しの混乱は人心をかき乱し、容易に安寧の壁は築けまい。<2024・11・7>