【解説】tuki.「晩餐歌」はどんな歌?歌詞から紐解く意味や込められた思いを考察する
『第75回NHK紅白歌合戦』で紅白初出場する、高校一年生のシンガーソングライター・tuki.(ツキ)。 写真:tuki.「晩餐歌」ジャケット写真 デビュー曲「晩餐歌」はストリーミング再生回数4億回を突破(※2024年12月現在)し、多くのリスナーに愛されている。本稿では、「晩餐歌」の歌詞を考察するとともにtuki.の魅力についても迫っていく。 ----- ■「晩餐歌」はどんな曲? 「晩餐歌」(読み:ばんさんか) ・歌唱/作詞/作曲:tuki. ・発売日:2023年9月29日配信リリース 「晩餐歌」は、シンガーソングライター・tuki.が2023年9月29日にリリースしたデビュー曲。同曲は、情景の浮かぶ歌詞と感情揺さぶる歌声で多くのリスナーを魅了し、瞬く間に各チャートを賑わせた。 ----- ◎「晩餐歌」が獲得した記録 Spotify「バイラルトップ10-日本」で初登場1位を獲得したほか、Apple Music「トップソングランキング」1位。また、Billboard Japan「Streaming Songs」では1位獲得に加え、39週連続でTOP10入りを果たす。その現象は一時的なものにとどまらず、2024年の年間Billboard JAPAN総合ソング・チャート【JAPAN Hot 100】では「晩餐歌」が2位を獲得。ソロアーティストとしては歴代最年少で累計2億回以上の再生回数を記録し、2024年12月までに4億回再生を突破。「晩餐歌」旋風と言える、バイラルヒットを生み出した。 ----- ◎MVは出水ぽすかがイラストを担当 2023年12月24日には「晩餐歌」のMVも公開された。MVのイラストは漫画『約束のネバーランド』の作画を担当する出水ぽすかが手がけ、再生回数は9,200万回を突破(※2024年12月29日現在)。 ・illustration: 出水ぽすか ・Director: 佐伯雄一郎 ・Designer: 小山唯香 ・Movie: iga kitty ・Movie Manager: 笹川侑悟 ・Creative Director: 大澤創太 ・Producer: Masaki Takahashi(NERD) ◎“出世払い”で費用を工面し、レコーディング 2022年4月17日、当時中学2年生(13歳)でTikTokに弾き語り動画を投稿し始め、2023年7月17日、tuki.中学3年生の時に「オリジナル曲の1番です!!」というメッセージとともにオリジナル曲を初投稿。 噛み締めたくなる歌詞、アコギの優しい音色、伸びやかな歌声に、瞬く間に心惹かれるリスナーが続出。フルを聴きたいという声に応えて、父親から出世払いというかたちでレコーディング費用をもらい、リリースしたのが「晩餐歌」だった。 ----- ◎楽曲誕生のきっかけは父親の小言 本人のコメントによると、「晩餐歌」誕生のきっかけは“お父さんのお小言”だそうで、「『人生は30,000日しかない。だらだらするな』そう言われてから、時間の意識を持つようになった」と、楽曲着想の経緯を明かしている。 また、“晩餐歌”という曲タイトルにも繋がる具体的なアイデアについては、授業で習ったレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』について家族と話していたときに何気なく母親から尋ねられた「最後の晩餐に何を食べたい?」という質問がきっかけ。 tuki.は母親の手作りチキン南蛮を食べたいと答えたものの、最後の晩餐に挙げるほど好きではあるが、たまには違うものを食べたくなるのは“超人間的”だと感じたのだとか。父親からのお小言と母親からの投げかけをもとに、まっすぐに物事をとらえる素直な感性のまま作り上げたのが「晩餐歌」である。 ----- ■歌詞から「晩餐歌」を紐解く 同曲では、“君”への想いを自問自答する主人公が登場する。 “君を泣かすから/だから一緒には居れないな”“君を泣かすから/早く忘れて欲しいんだ”という、主人公の自分勝手な独白から楽曲世界が幕を開けるので、どういうことなのかと自然と吸い込まれていく。 実際に君以外の誰かに気を取られて、君を悲しませたのか? それとも、ただの強がりなのか? “人間だからね/たまには違うものも食べたいね”という楽曲誕生のアイデアが、ここでは意味深なフレーズとして、主人公と君の関係性をより深く想像させる。 そんな主人公が交錯する気持ちを明かすのがBメロ。君を遠ざけようとしていた主人公だが“でも味気ないんだよね/会いたくなんだよね”と本音を明かし、自分勝手であることを認めながら、“大体曖昧なんだよね”と主人公も自身の抱く感情や言動に戸惑っているような印象を受ける。その後に“愛の存在証明なんて/君が教えてくれないか”と綴っていることから、“愛”が何かを十分にわかっていないものの、主人公は誰よりも愛を欲しており、愛をもらう相手は“君”であってほしいと思っているのではないだろうか。 1番のサビでは、君を泣かしたことも、たまには違うものも食べたいなんて言ったことも棚に上げて、“愛してるを並べてみて”と愛を求め、“最高のフルコースを頂戴”と受け身な姿勢で想いを綴る主人公。 ちぐはぐな言動や受け身の姿勢などから、主人公の(精神的な)幼さが際立つとともに、だそれにゆえにストレートに愛を欲することができるのだろうなと純真無垢さが羨ましくも感じる。 ただ、主人公は薄々気づいているのだろう、愛が一方通行では成り立たないことを。その証拠に2番のAメロでは、謙虚さが見えてくる。“たまには分かり合えなくなって/君を泣かすから”というフレーズからも、「そんな時もあるけどごめんね…」といった後悔の念が滲んでおり、自問自答の中で主人公が少しずつ心変わりしているのだとうかがえる。 自分の弱さを綴るBメロでは、1番で“大体曖昧なんだよね”と言っていた言葉が“大体曖昧だったよね”と過去形に変化し、君に問いかけていた愛の存在証明についても“君がそこにいるのにね”と、君がいてくれることこそが愛の存在証明であると自分で答えを導き出す。 「晩餐歌」の歌詞の魅力は、“君”を泣かす主人公が自問自答の中で答えを導き出し、自分なりの愛の形を見つける成長物語になっていることだろう。 2番のサビでは、“何十回の夜を過ごしたって”が“何百回の夜を過ごしたって”に変わり、それだけ日数を要する“より尊いもの”として描かれている。“愛してるを並べてみて”は同じフレーズながら印象が異なり、2番ではどこか願うように聴こえるから不思議だ。 “離れないで 傍に居てくれたのは/結局君一人だったよね”と、君がいてくれることこそが愛の存在証明であることを再確認するCメロを経たサビでは、何千回、何万回と回数が増えることで永遠の愛を感じさせる。さらに“愛してるを並べるから”と受け身だった主人公がに自発的になっていることからも主人公、そして君との関係の成熟ぶりも想像できる。 同曲内で印象的に響く“最高のフルコース”についても、最初は“主人公の心を満たすほどの愛”だと推測していたが、最後には“君との愛で紡ぐ人生”へと同じ言葉でも主人公の心の持ちようで変化しているのも特筆すべき点だろう。 “人生の限られた時間=30,000日”をどう過ごすのか──。芽生えたばかりの若い恋愛とも、親友や家族…「晩餐歌」の誕生経緯から考えると、親からの無償の愛に甘えてしまう子どもの成長を綴っているようにも感じられるが、こうやって聴く人それぞれが自身にとって大切な“愛”を考えながら聴くことができるのも面白い。 ----- ■シンガーソングライターtuki.とは? ◎アーティスト名“tuki.”の由来は? 神秘的なイメージを持っていた月が昔から好きだったことから“tuki.”と命名。この英表記については、「tsuより4文字の方がしっくりくる」ため“tuki.”にしたとのこと。 ----- ◎素顔を明かさず、神秘的な雰囲気を放つ 現在明かされているのは、2024年12月現在で高校一年生(15歳)であり、ギターとピアノを弾くシンガーソングライターであること。 SNSで日々感じたことや自撮り、弾き語り投稿等は行っているが、素顔は明かしておらず、アーティストビジュアルは、tuki.が敬愛するイラストレーターのwatabokuが担当。 演奏動画やMVでも顔が映らないカメラワークやライティングを施し、まさに“tuki.=月”のように神秘的な存在として活動中だ。 ----- ◎心奪われる歌唱力の高さ tuki.最大の魅力は聴く者の心を一発で奪う歌唱力の高さだ。伸びやかで芯のある歌声は憂いや繊細さも併せ持ち、キュンと胸締め付けるファルセットも効果的だ。高いスキルと豊かな感情で表現し、聴く者を楽曲世界へ誘う。 ----- ◎音楽リスナーとしても嗅覚鋭いtuki. TikTokで流れてきた楽曲のなかで、自身の琴線に触れたものを聴くことが多いためか、彼女が作詞作曲を手がけるオリジナル曲は実に振り幅が大きい。実際にこれまで公開している弾き語り動画でも様々な楽曲を披露している。 ----- ◎13歳からオリジナル曲制作をスタート 13歳でギターを始めて、オリジナル曲作りを始めたというtuki.だが、音楽的ルーツというところでは、幼い頃からピアノを習い、クラッシックを弾いていたそう。「一輪花」や「サクラキミワタシ」、優里とのコラボ映像ではピアノでの弾き語りを披露している。彼女の生み出す美しくキャッチーなメロディやドラマチックな曲展開に見える作曲能力の高さは、ピアノやクラシックの影響もありそうだ。 ----- ◎ピュアな感性と独自の視点、鋭い言語感覚で綴る歌詞 家族との会話をきっかけに作詞した「晩餐歌」のように、日常生活から生まれる発想をピュアな感性と独自の視点、鋭い言語感覚で綴る歌詞。半径5mほどの身近なところにある題材を自分の言葉で描けているからこそ、歌唱力の高さを最大限も活かせるし、そこに自身の想いや感情を思い切り詰め込むことができるのだろう。 ----- ◎SNSでは等身大で青春を謳歌する15歳の姿も 弱冠15歳、高校一年生のアーティスト・tuki.は溢れ出る才能を遺憾なく発揮し、『第75回NHK紅白歌合戦』で紅白初出場。TikTokでのバズをきっかけに注目される存在となった彼女だが、ちょっとしたオヤジギャグを言ってみたり、好きなものについて熱くなったり、家族とのやりとりなど、SNSでは等身大の日常を変わらず発信。投稿から見受けられる無邪気な姿に親近感を覚える。 ----- ■tuki.にハマる!必聴曲5選 「一輪花」 2023年11月28日リリース。大切な人との別れに打ちひしがれながら、凛と立つ一輪花のように咲き続けようと決意する主人公の心境を歌っている。感傷的なtuki.の歌声にピアノサウンドが切なさを引き立てる淡いバラードソングは「晩餐歌」とも異なる少し大人びた表情を映し、シンガーソングライターとしての確かな実力を感じさせる。強く生きる決意をするも、“会いたいよって居ないよ”と最大級の愛を想い返し揺らぐ心。“泣かないよ一輪花”と綴った最後の言葉に、“雨=涙”を超えて強くなる、主人公の成長が見える。 ----- 「サクラキミワタシ」 2024年1月10日リリース。tuki.が中学校を卒業する前に発表した同曲は、大好きだった君や学校との別れを歌った卒業ソングであり、桜ソングだ。どこか寂しげな卒業の日の教室の顔、春に散る恋と分かっていたのに恋してしまった君への想い…いつか通り過ぎてしまった青春ではなく、現在進行系で描かれるリアルな気持ちや描写にハッキリと風景や心境が浮かび、卒業や切ない別れを疑似体験させてくれる。 ----- 「地獄恋文(インフェルノラブレター)」 2024年4月16日リリース。ただ純粋に愛しているだけなのに…禁断の恋愛を彷彿とさせる同曲。愛し合ってはいけないふたり、だけど愛する気持ちが止められないという切なさを感情むき出しで歌うtuki.のボーカルが印象的だ。“地獄で会いましょう”という言葉は、それだけ罪深いことをしているのだという自覚にも、地獄だったとしても一緒にいられるのであれば行きたいと願ってしまうほどの純愛だとも受け取ることができ、すごく人間味溢れる姿が描かれている。 ----- 「ひゅるりらぱっぱ」 2024年7月24日リリース。拍子木の合図で始まり、高速ビートに琴などの和楽器で和テイストをかけ合わせた温故知新なアッパーチューン。アップテンポな曲調に乗せた高速ボーカルや“ひゅるひゅるりーらら ひゅるりらぱっぱ”とお祭り騒ぎを盛り立てる陽気なフレーズから、tuki.のあらたな魅力が見えた一曲。踊るようなメロディで歌うのは、“生きたいように生きなはれや”というポジティブなメッセージ。学校生活に音楽活動にとやりたいことに思い切り打ち込めている彼女が人生をより楽しむため、“まごうことなく君のまま”と自己肯定し、自身を奮起させる意味もあるのかも知れない。 ----- 「アイモライモ」 2024年11月6日リリース。実際に会えなくても、SNSなどで気軽にコミュニケーションがとれるようになった現在だが、その反面、返事のそっけなさやちょっとしたやりとりから相手の心変わりに不安を募らせることも。“二人繋いだラインも/どちらかが切れば終わるから/赤い糸解かないで”は15歳のtuki.ならではのワードセンスである。ちゃんと好きだと面と向かって言ってほしい、今だけしかない愛を咲かせ続けたい…“アイモライモ=愛もLie(嘘)も”承知のうえで、愛を求める健気さにぐっとくる。 ----- ■1stアルバム『15』発売 13歳でオリジナル楽曲を作り始めたtuki.が、15歳になるまでに作った曲を収録した1stアルバム『15』を2025年1月8日にリリースする。デビュー曲である「晩餐歌」をはじめ、「一輪花」「サクラキミワタシ」「ひゅるりらぱっぱ」などの代表曲はもちろん、未発表の新録曲が7曲、CDのみに収録されるボーナストラックが2曲、計15曲を収録。 ジャケット写真は、彼女のこれまでのすべてのアートワークを手がけているwatabokuの描き下ろしだ。数量限定の完全生産限定盤には、tuki.のジャケット写真でおなじみの「usagi-sanぬいぐるみ」、さらに楽曲以外の情報がベールに包まれたtuki.のことをもっと知りたいという声に答えた、60ページにおよぶ「tuki. 15 Special book」が付属される。 1stアルバム『15』のリリースにあたってtuki.は「間違いなくいまの私が刻まれた1枚です。是非、聴いて下さい」とコメント。彼女のこれまでの軌跡、そしてここから広がっていく未来を感じられるであろう同作を心待ちにしたい。 ----- ■レコ大、紅白、アルバム発売と目白押し!tuki.最新情報 『第66回 輝く!日本レコード大賞』で特別賞を受賞したほか、2024年の締めくくりとして『第75回NHK紅白歌合戦』で紅白初出場を控えるtuki.。初のテレビ生歌唱とあって、どんなパフォーマンスになるのか? 期待は高まるばかりである。 そして、年明け早々2025年1月8日には待望の1stアルバム『15』をリリース。高校一年生(15歳)と伸びしろしかないtuki.のここからの成長と飛躍にも大いに期待したい。 TEXT BY フジジュン
THE FIRST TIMES編集部