須藤寿インタビュー「須藤寿 GATALI ACOUSTIC SETってヴァン・ヘイレンみたいなもの」
――なんか、どんどん不思議なプロジェクトになってきましたよね。須藤寿という名前を冠に掲げてはいるんですけど、もう普通にバンドだし。 ほんと、バンドになってきたというか。彼らとは実はもう10年ぐらい一緒にいるんですよね。付かず離れずですけど、すごくいい距離感でやってますね。 ――バンドをやってた人がソロ活動をするとなると、「自分の楽曲世界をより濃密に展開して云々」みたいなことを考えたりするじゃないですか。もちろん、GATALIも歌詞は須藤くんが書いてるんですけど、楽曲はメンバーが持ち寄ったりしているわけで。 さらに面白いのは、曲を書いてきた人が、その曲のプロデューサーなんですよ。だから、曲を書いた人が完全にイニシアチブを握るっていう感じなんですよね。アイゴンさんは曲だけ渡してくれて「GATALIのみんなに任せるよ」っていうことだったので、メンバー5人でわりと平等に作ったんですけど、あとの曲はみんなプロデューサーみたいなものなんですよね。それぞれ自分のメインのバンドを持ってたりするメンバーばかりで、自分で仕切ろうとすれば仕切れる人が集まっているので。今回はそういうところを楽しみましたね。どんなふうに脚色してくれるのかな?って。髭だったら、9割5分ぐらい自分がメインのソングライティングになっちゃうので。その一方で、GATALIは「自分のイメージ世界を具現化する」というよりは、GATALIのメンバーに会って、「須藤はこういうところの声がいいからさ」みたいな感じでディレクション、プロデュースしてもらう感じがすごく新鮮で。そういう試みはありましたね。完全に他のメンバーの俎板の上に乗っかる、みたいな。そういうのが楽しかったです。 ――今の話を聞いてても、普通の人が考える「ソロ」と「バンド」の位置関係が逆なんですよね。大抵の場合、バンドでは他のメンバーと拮抗しながら自分の世界観を展開して、ソロでは自分の思う世界観を構築する、みたいな形になるんですけど。須藤くんの場合、「自分の思う世界観」を展開すると、こうやって自分以外がよりフィーチャーされた形態になるんですよ。 そうそう。こっちの方が何も考えてないというか(笑)。智樹さんのおっしゃった通り、須藤寿 GATALI ACOUSTIC SETってヴァン・ヘイレンみたいなもので、「須藤寿」っていう名前が冠されちゃっただけで、この5人のバンドになっちゃってるので。もう「須藤寿」って取っちゃってもいいのにな?と思うんですよね(笑)。「髭ではできない、これが須藤寿の120%の世界観です!」っていうものでは全然なくて、むしろもう僕の部分は10%か20%ぐらいしかなくて。だから、「彼らが見た僕」っていうものを、僕は見てみたくて。そういう場にはなってきてますよね、GATALIは。お客さんも本当にリラックスしてるし、みんなで笑ってますよね。 ――逆に言うと、百戦錬磨の強者たちが集まって、ひとつのユートピアを作るっていうのが、須藤寿のソロの形なんだろうなっていう。だから、自分がイニシアチブを握って「俺の言うことを聞け」っていうのは違うっていうことなんだろうと思うんですよね。 うんうん。GATALIはまさにそういう感じですね。だって、スタジオのリハーサルの時も、ライブのリハーサルの時も、音を出し始めたら、意外と自分が一番発言してないかもしれない(笑)。それが結構楽しいんですよね。余裕が欲しいっていうか。それがGATALIの、僕らの中でのスペースになってる気がしますね。 ――1枚のアルバムの中でも、「離島」から「オノマトペ」に移る瞬間、ガラッと色彩が変わりますよね。 ね? 全然色が変わりますよね。あと、GATALIのみんなでやると、結構「曲が濡れる」んですよね。「離島」はカラッとしてるけど、意外とあとはジトッとしてるというか(笑)。そういうものなんだなって。 ――今の音楽って、サイケデリックっていう空気感が成立しづらいと思うんですけど。このアルバムは音楽だけの力で成立している、2024年なりのサイケデリック、解放の音楽だと思いますね。 ライブへ来てくれるみなさんは、もちろんチケットを買ってきてくれると思うんですけど、この『離島東京』もライブチケットだと思って――ぐらいの気分で聴いてもらえたらいいと思うんですよね。次に7月でみんなで会うための、ひとつのライブチケットだと思って、気軽な感じで聴いてもらって。僕たちが集まってる雰囲気とか、生の演奏を聴いて、純粋にリラックスしてもらえればって思うんですよね。 ――7月には『離島東京』のリリースツアーも開催されます。ツアー3公演の会場が神戸・岡山・東京というのも不思議ですよね。3公演だったら、東名阪を回るのが常識みたいになってますけど――。 GATALIって謎の動き方をしてるんですよね。2022年からフェスにも呼ばれ始めて――その年は呼ばれたフェスしか出なかったんですけど、その2本とも会場が岡山で。なんか妙に岡山に縁があるんですよね。岡山出身のメンバーは誰もいないんですけど(笑)。本当は名古屋あたりもやりたかったんですけど、メンバーのスケジュールが合わせられなくて。メンバーみんないろんな活動をしてるので。スケジュールが合ったところでみんなでやろうよ、みたいな感じですね。 ――岡山の会場はお寺ですからね。 そうなんですよ。ライブハウスとか、いつもやってるところは、もちろん自分たちの中でも知ってるんだけど、「どっか面白いところ知らないかな?」って訊いてみたら、みんな百戦錬磨で、いろんなところでやってるから。大地(伊藤大地))とケイタくんが「岡山の蔭凉寺って知ってる?」って言ってくれて。「何それ、お寺? やってみようよ」っていう話になって。 ――蔭凉寺は、住職の方が独学で音響を学んで、ライブ会場として提供しているらしいですね。 そうらしいですね。いろいろ話を聞くと、お寺にしては、こちらが持ち込まなくてもいいような、ある程度のシステムができてるっていうね。普通は、PA機材とか持ち込みになっちゃうじゃないですか。そこにコストがかかっちゃったりするんだけど、ここはそういうものが揃ってるらしいので。ライブをやるのもすごく楽しみにしてるんですよね。今はなんか、『離島東京』のツアーだって言ってるのに――ここに入ってるのは2020年より前の楽曲たちなんで、リハーサルとかやってたら盛り上がっちゃって。この前、GATALIの新曲書いたんだよね。謎のやる気をみせてて(笑)。 ――すごいですね(笑)。 今年の初めに「今年はGATALIでこういう動きをするから」っていうことで、ファンファーレ的に1月にライブを渋谷duoでやったんですよ。その時に、やっぱり楽しいなと思って。この気分で、GATALIの新曲を書きたくなっちゃって、そこから1週間以内ぐらいで書いたんですよね。「7月にライブやるんだから、新曲とかもないとね」みたいなことを言ってるんだけど、そもそもこのアルバムの曲が「新曲」なんですよ(笑)。もう、ちょっと未来を見すぎているぐらいの感じがあるので。『離島東京』プラス、2024年の僕たちも見せられたらいいな、っていう感じですね。 Text:高橋智樹 <リリース情報> 3rdアルバム『離島東京』 2024年6月12日(水) リリース 【収録曲】 01. 離島 02. オノマトペ 03. (My Name is) CAMPFIRE 04. Exit Club 05. あうん 06. ことづけ 07. アンブレラズ <ライブ情報> 『離島東京 Tour』 2024年7月24日(水) 18:15開場、19:00開演 会場:神戸 クラブ月世界 2024年7月25日(木) 18:15開場、19:00開演 会場:岡山 蔭凉寺(いんりょうじ) 2024年7月31日(水)18:15開場、19:00開演 会場:渋谷 duo MUSIC EXCHANGE 出演:須藤寿 GATALI ACOUSTIC SET ▼メンバー 須藤寿(GATALI / 髭) 長岡亮介(g. / ペトロールズ) 伊藤大地(ds. / グッドラックヘイワ) ケイタイモ(b / WUJA BIN BIN) 中込陽大(Key.)