作家・清武英利氏「組織の中の人々の苦しみ、喜び、矜持を書き続けたい」
清武英利氏は、組織と葛藤し、時には抗って生きる「後列の人々」を描いているノンフィクション作家だ。読売新聞で社会部デスクや部長を務め、読売巨人軍の球団代表を解任されるという“華々しい”経歴の持ち主でもある。2013年に山一證券の倒産、清算を舞台にした『しんがり 山一證券 最後の12人』を著し、昨年は機密費流用事件を捜査した刑事を描いた『石つぶて 警視庁二課刑事の残したもの』を出版、いずれもドラマ化されている。清武氏に『石つぶて』に込めた思いや取材活動の様子などについて聞いた。
「後ろの列」にいる人を描く
──『石つぶて』は機密費流用事件を舞台にしたノンフィクションですが、人を描いている作品という印象を強く受けました。 清武英利氏 もともと(新聞社の)社会部の人間なので、「社会部の人間なので」という言い方はおかしいのかもしれないけれど、描く人も後ろの方にいる人、あまり目立たないけれど気骨のある人、そういう人を探して物語を書くことが今の僕の仕事です。それと組織との、まぁ、組織の中でどう生きるのかという。組織とは無縁に生きてはいけないわけで人間は。だから、後ろの方にいて、抵抗人というか、抵抗するような人、「このままでいいのか」という思いでいる人を探すことが僕の今の仕事。それを一つずつやっているのです。 ──あとがきに「私は、巨大な組織の『餌付け』を拒んで生きる人々を、社会の片隅から見つけ出すことを仕事にしている」とも書いていらっしゃる。清武さんご自身、巨人軍の球団代表だった2011年、読売の“ドン”と言われる渡邉恒雄さんを告発したいわゆる「清武の乱」を起こされた。その時の印象が未だに強いのですが、その体験が現在の作家活動の根底にあるのですか? 清武氏 まぁ、どっかで重ねているところはあると思うんですよ。そう言われるから。自分では意識しなかったけれども。『しんがり』を書いた後によく言われました。それは否定できない気もします。結局、社会とか企業とか、あるいはトップが、人々がおかしいなと思う時に、個人はなかなか声を出しにくいですよね。保身や将来を考えるから。でも、声を上げざるを得ない人もいっぱいいるわけですよね。内部告発をしたり、内部告発にまで至らなくても、おかしいじゃないですかと。僕は、そのおかしいじゃないですかというのを大事にしたいわけですよ。一生の悔いになるから。おかしいと思う時に、おかしいと声を上げる社会であってもらいたいし、そうだねって考える社会であってもらいたい。だから、おっしゃる質問で言うと、若干、重ねているところはあると思うんだけれど意図的にそれをやろうという気持ちはないのです。