「マルサの女」モデル女性、宮本信子さんとは「何でも話せる仲」…撮影前には「リアル」内偵同行「今なら絶対許されない」
スクリーンに映った女性は、まるで自分のようだった。しゃべり方、伝票をめくるしぐさ、たばこの吸い方まで……。試写会を見ながら、顔が真っ赤になった。「女優ってすごいな」 【写真】マルサの女「モデル」女性が宮本信子さんと税務署で初対面…伊丹監督も同席
１９８７年２月、脱税を摘発する国税局査察部（通称・マルサ）の女性査察官の姿を描いた映画「マルサの女」が公開された。主人公の「モデル」になったのが、国税庁の職員として働いていた斉藤和子さん（８０）＝当時４２歳＝だった。
男性優位の風潮が根強かった時代に、女性査察官が悪者を追い詰めていく作品は、大ヒット。「マルサ」の言葉とともに、国税職員の仕事を世間に知らしめた。
主演の宮本信子さん（７９）の役作りに協力した斉藤さん。その方法は、今では考えられないものだった。そして、作品で結ばれた縁は、傘寿を迎えた今もひっそりと続いている。（社会部 柏原諒輪）
俳優と内偵「リアル」伝授
緊張して何を話したのか覚えていない。目の前にいるのは、銀幕のスターだった。東京・浅草税務署の調査官だった斉藤和子さん（８０）は１９８６年夏、俳優の宮本信子さん（７９）と初めて対面した。
映画「マルサの女」で主人公を演じるにあたり、ほかの女性職員に話を聞いた宮本さん。役のイメージが湧いてこない。そこで、国税庁幹部が「気が強くて物おじしない」と斉藤さんを紹介した。
脱税疑惑のお好み焼き店「メモせず暗記」
有名人なのに電車で署に来る飾らない性格の宮本さんと、すぐに打ち解けた。「せっかくだからリアルな現場を見て、ありのままを演じてほしい」。連れて行ったのは、浅草の老舗お好み焼き店。まさに脱税の疑いがあるとみて、内偵していた店だった。
絶対にキョロキョロしないで――。そう告げて店に入ると、向かい合って談笑しながら箸を動かす。店内の様子を確認する調査のノウハウを時折、ささやいた。
「値段、客席数、従業員数はメモせず暗記する」「レジ打ちが正しいかを調査時に確認するため、混雑時に勘定して前後の客の金額を覚える」
数日後、宮本さんが訪ねてきた。あのお好み焼き店の系列店に一人で行き、調査をしてきたのだという。報告を聞いて思わず笑った。「すぐ職員になれるぐらい完璧だった」
