【3話考察】ドラマ24『錦糸町パラダイス~渋谷から一本』
錦糸町に暮らす登場人物たちの「日常」を体感する30分間。ドラマ24『錦糸町パラダイス~渋谷から一本』(テレ東金曜深夜24時12分~)3話を、ドラマを愛するライター・釣木文恵と、イラストレーターのオカヤイヅミが振り返ります。
あらすじには表れない「日常」を描く
『錦糸町パラダイス』第3話、TVerなどの概要欄に書かれているあらすじはこう始まる。 「大助(賀来賢人)・裕ちゃん(柄本時生)・一平(落合モトキ)は地元FMを聞きながら、フィリピンパブ『サラマッポ』の清掃に向かう」 第3話の内容を書こうとすると、たしかにこの文章になるだろう。でも実際に観てみると、1話30分、CMを抜くと実質23分間のこの回の中で、清掃会社・整理整頓の3人が会社から清掃に出発するのは開始6分半経った頃。「サラマッポ」へ向かう道すがらもたっぷりあって、到着するのはじつに11分半過ぎだ。 その間、何が描かれているか。 裕ちゃんが朝起きて、支度をするさま(前回のレビューでも書いたが、「今まであまりドラマで観たことのないシーン」ばかり)。一平が迎えに来て、自然に車の後ろのスロープを出すところ。会社で朝食の準備をしている大助の姿。ゆっくりとあがっていくシャッター。大助が目玉焼きにマヨネーズをかける姿。到着した車を見て、なかば自動的に裕ちゃんが車を降りるのを手伝いに行く大助。3人揃って朝食を食べ始めるようす。やがて、仕事の道具を車に積み込む一平。見送る受付嬢たち。このとき、受付嬢A(奥津マリリ)がスマホで顔に日陰を作っている仕草もいい。車の中では、放って置くとなみえ(濱田マリ)とかおる(光石研)がいちゃつきはじめる地元FM「星降る錦糸町」を聞き、そこで出た話題についてダベる3人。 すべて、3人の日常。この会社ができてから何百回と繰り返されてきた、同じ朝。丁寧に描写されるそれを、私たちは観る。 このドラマほど、あらすじで話の流れを掴んだだけでは意味のない作品もない。30分間このドラマを観る、このドラマといっしょに時間を過ごすことにこそ価値がある。