【3話考察】ドラマ24『錦糸町パラダイス~渋谷から一本』
言葉にしないまま一緒にいる関係
後半の心音(さとうほなみ)と山岸ミカ(矢野あゆみ)のシーンでも、前半と同じ感覚を得る。自転車で走る心音に、ミカの自転車が合流してくる。心音は喫茶店「デルコッフィー」を親から継いで経営している。ミカはこの喫茶店で、メニューには載っていない「ミルクコーヒー」を飲むのが常だ。ミカがミルクコーヒーを飲む描写は1話にもあったし、幼なじみのこの2人にとって、こうして一緒に川沿いの道を自転車で並走するのもよくあることなのだろう。ひたすら二人が自転車を漕ぐ姿が映し出される長回しのこのシーンで、毎日繰り返される彼女たちの日常の一端を、私たちは経験する。 ミカはフィリピン人の母とともに「サラマッポ」で働いていたが、店で秘密裏に売春が行われていたこと、それが摘発されてしまったことから、フィリピンに強制送還される。そんな重い話を、ミカはなんでもないことのように心音に話す。 2話のラストで「サラマッポ」にパトカーが集結した画を観たときは、錦糸町の日常がガラリと変わるのかと思った。けれど、変わらない。整理整頓の3人はいつものように仕事に向かい、幼なじみの2人は自転車で走る。ミカは来週にもフィリピンに行かなくてはならないかもしれない。日本で生まれ育った彼女にとっては大きな変化だ。けれど街自体は、ほとんどなにも変わらない。
ミカのこれからと蒼の謎
「サラマッポ」で一平が見つけた、フィリピン語を学習しているようすのノートはおそらくミカのものだろう。心音やミカは大助や裕ちゃんと同級生。一平はひとつ歳下だけれど、同じ高校。皮肉にも、入国管理局で働き、強制送還に関わる遠田(森岡龍)も彼女たちの同級生だ。この街で生まれ、街を出ないまま大人になった人たちが集まる、狭いコミュニティ。遠田は自分が強制送還をさせようとしている母娘の娘がミカであることにまだ気づいていないようだが、それを知ったとき、どうなるのだろう。 いつも街を眺めているまっさん(星田英利)は謎のルポライター・蒼(岡田将生)を昔から知っているらしい。彼らの会話によって、蒼はグルメ情報などをコミュニティ紙に書いていることがわかった。1、2話の蒼の振る舞いから想像していたよりもずいぶん穏やかな仕事だ。「この街にとっていいことしてるよ」という彼の発言に他意はないのだろうか。 ●番組情報 ドラマ24『錦糸町パラダイス~渋谷から一本』(テレ東) 企画・原案_柄本時生、今井隆文、太田勇 脚本_今井隆文、太田勇、石黒麻衣 監督_廣木隆一、太田勇、木ノ本浩平 出演_賀来賢人、柄本時生、落合モトキ、岡田将生 他 主題歌_MOROHA 『燦美歌』 Lemino、U-NEXTにて全話配信中(有料) ●釣木文恵/つるき・ふみえ ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。 ●オカヤイヅミ 漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。この2作品で第26回手塚治虫文化賞を受賞。趣味は自炊。 Edit_Yukiko Arai
GINZA