夫婦で追いかけ掴んだ夢 “ロボットのいるお店”が「いつか日常になって欲しい」
産業用ロボットは、スイッチを入れても、すぐには動き出しません。「ティーチング」と言って、どんな作業をさせるかをロボットに教えます。東京の1LDKのマンションでは、ロボットを調整するには狭すぎるし、モーター音が近所迷惑になるかもしれない。それなら環境のいい場所に引っ越そうと選んだのが、浦和でした。 一軒家を借りて、ここでロボットのティーチングを始めるために、祐喜さんは半年間の休職届を出します。会社側は産業用ロボットがカフェで活用できるのか、実験的な店舗になると理解を示してくれました。ただし半年間、給料は出ません。 一方、頌子さんは店舗探しに奔走します。いま人気の浦和ですから、家賃が高く、条件に合うものが、なかなか見つかりません。そんな時、空き店舗を活用し、商店街を活性していくというプロジェクトを見つけます。浦和駅東口から5分ほどの店舗が、5万円ほどで借りられる! さらに、100万円相当の施設工事補助が出る! 早速、コンペに応募しますが、残念ながら落選してしまいます。
「ロボットのいるお店」……、自信があっただけにショックは大きく、何度も「やめようか」と諦めかけました。 それでも夢を諦めない2人に、奇跡的に好条件の物件が見つかります。場所は、JR南浦和駅から歩いて10分。信用金庫や百円ショップ、人気のラーメン店、さらに女性オーナーが営む個人店がいくつかあって、人通りも多いエリアです。気になる家賃も希望通りでした。 こうして10月15日、ロボットのいるお店『ハレとケ』がオープンします。 「ハレとケ」? ちょっと変わった名前ですが、これは民俗学者・柳田國男が提唱した概念で、非日常の(ハレ)と、日常の(ケ)を表しています。「ロボットはまだ珍しく非日常といえますが、いつか日常になって欲しい」という意味を込めて、頌子さんが名付けました。
ロボットがコーヒーを淹れる時間は、7分ほどです。「じっと見ているお客さんもいれば、スマホで動画を撮るお客さんもいます。ロボットのおかげで接客に集中できるのが嬉しいですね」と笑顔の頌子さん。 装飾にあまり費用をかけられず、シンプルな店構えですが、“ロボットバリスタ”が淹れるコーヒーは、香り豊かでコク深く、どこか、未来を感じさせる味わいです。