『プロスピ2024-2025』開発陣インタビュー。没入感を高めるためにリアルな打球速度を採用。ビールの売り子さんの声まで聞こえるほど音響にこだわる
KONAMIから2024年10月17日に発売予定のプレイステーション5(PS5)、PC(Steam)用ソフト『プロ野球スピリッツ2024-2025』(以下、『プロスピ2024)』)。 【記事の画像(6枚)を見る】 リアルなグラフィックや音響はプレイステーションとPC対応となり劇的に進化。さらに、高校野球の監督として甲子園優勝を目指す“白球のキセキ”や球団のゼネラルマネージャー兼社長になって日本一の球団を目指す“myBALLPARK”などの新モードを搭載する。もちろんこれまでのシリーズ作品にも搭載されていた“ペナントレース”や“スタープレイヤー”などのモードもパワーアップしたシリーズ20周年記念作品だ。 そんな本作を試遊できるメディア向け合同体験会が開催された。本稿では試遊後に行われた開発陣へのインタビューをお届けする。 山口剛氏(やまぐちつよし): 『プロ野球スピリッツ2024-2025』統括ディレクター(文中は山口) 吉田和史氏(よしだまさふみ): 『プロ野球スピリッツ2024-2025』グラフィック担当(文中は吉田) 柏崎歩氏(かしざきあゆむ): 『プロ野球スピリッツ2024-2025』サウンド担当(文中は柏崎) 柿崎良幸氏(かきざきよしゆき): 『プロ野球スピリッツ2024-2025』myBALLPARK担当(文中は柿崎) 池本健二氏(いけもとけんじ): 『プロ野球スピリッツ2024-2025』白球のキセキ担当(文中は池本) より現実の野球に近くして没入感を高める ――スポーツゲームは最新のデータを反映させた新作を毎年発売することが多く、2015年まで『プロスピ』もそうでした。以降は間隔が空き、本作は3年ぶりの新作になります。発売スパンが変更された理由を教えてください。: 山口: 『プロ野球スピリッツ2015』のときに、初めて3Dフォトスキャン技術を導入して、よりリアルな野球ゲームを皆様にお届けしようとしました。 そのときに改めて感じたのですが、技術の進歩は日進月歩。時間をかけて研究しなければ、ハイクオリティーなものを制作することは難しく、我々もプロとして中途半端なものはお見せできません。なので、時間をかけても皆様が納得できる内容にしたものを作るという方針に切り替えたのが理由です。 ――実際にプレイして丁寧に作りこまれていると感じました。長い時間をかけて研究をされたということですが、その中でもとくに作りこんだ部分を教えてください。 吉田: 大きな変更としては、プレイしてくださる方に驚いてもらえるよう、さらに野球の熱量も伝えられるように、グラフィックエンジンとしてアンリアルエンジンを導入しました。選手の髪の毛、観客のプラカード、球場全体の没入感にこだわって作っています。 ――選手の表情などがよりリアルになっていますが、どのような方法で制作しているのでしょうか。 吉田: キャンプ地などに伺って、ひとりひとりスキャンさせていただいて制作しました。 ――そうなるとシーズン途中に入団した選手がいた場合はたいへんそうですね。: 吉田: シーズン中だと撮影の都合が合わないことがあるので、そういった場合は社内ツールを駆使して作っています。 また今作はアンリアルエンジンのプラグインで映画でも使用される技術のHairGroomを使っているので、髪の毛一本一本を繊細に描写することが可能になりました。 ――全員の完成度が高くてすべて同じ作り方をしたのかと思っていました。選手や監督だけではなく、観客の表情や動きなども作りこまれていますよね。 吉田: これまでの観客の表示数は約15000人程度でしたが、本作では最大30000人以上を表示しています。 さらに観客全員がそれぞれ個々に動くようにこれまで以上にこだわって制作していて、時間が経つと席を立ったり、食べ物を買ってくるといった細かな動きを用意しています。 ――スポーツゲームでは観客をビルボードで処理したり、コピーアンドペーストで作っていることも多いですが、本作では観客の動きからもリアルさが伝わってきます。やはり実際の球場に赴いて選手の動きだけではなく、観客にも注目していたから生み出されたものなのでしょうか。 吉田: 観客を担当するスタッフがたくさんの試合を観て、モデル、モーションのバリエーションを割り出して制作を行いました。プレイのひとつひとつに反応する観客やベンチの選手の動きもこだわっています。 ――プレイ中に観客を気にしない人もいると思うのですが、そんなところまで作りこんでいるのですね。ちなみに本作はアンリアルエンジンと“eBaseball Engine”のふたつのエンジンを使用していますが、使い分けはどのようにしているのですか。 山口: 野球は選手の見た目や動き、球場の音響、観客といったさまざまな要素で構成されています。そんな野球を再現するために選手や観客の動きをアンリアルエンジンで表現して、“eBaseball Engine”で制御しています。 ――グラフィック以外の部分でとくに力を入れたところはありますか。 柏崎: サウンド面は大きくふたつのことに力を入れました。まずはスタジアムの音響空間の表現です。球場に行ってキャプチャ―したデータを使って、実際の球場にいるように聞こえる音の響きを再現してゲームに実装しました。 もうひとつは音声合成AIです。いままでも要望をいただいていたのですが……。打率や打点などの数字をすべて網羅しようとすると数が膨大になるので、一部の収録しかできていませんでした。それが音声合成AIを導入したことで、これまでよりもなめらかに聞こえるようになっています。それだけではなく、オリジナル選手やチーム名なども表現の幅が広がっているので楽しんでください。 ――実況を聞いていてもAIだとはわからなかったです。それにピッチャーの操作時に外野席から歓声や応援歌が聞こえてくるようでしたし。よく聞いて見るとビールの売り子さんの声も入っていますよね。 柏崎: よく気付きましたね。そういった音声も収録しました。実際の球場だとホームとビジターに分かれていると思いますが、ホームの選手が活躍したときにはホーム側から音が聞こえるようにするといった調整もしています。 ――まさにひとりの選手として球場に立っている感覚が味わえるのですね。球場と言えば、登場する球場はレーザースキャンして再現したとお聞きしました。2023年から北海道日本ハムファイターズの本拠地がエスコンフィールドHOKKAIDOに変わりましたが、どのように制作したのですか。: 吉田: 建設途中のエスコンフィールドHOKKAIDOにお邪魔させていただいて、レーザースキャンさせていただきました。球場が完成に近づくにつれて、 『プロスピ』のエスコンフィールドHOKKAIDOも同じように完成に近づいていきました。 ほかの球場に関しても毎年取材しています。改修などが行われるときには、写真や図面などの情報を頂いたりしながら対応しています。 ――ここまでこだわってリアルな野球を体験できるようになった一方、打球の速度などがよりリアルになったことで、逆にゲームとしての爽快感が薄まっている部分も感じました。 山口: これにもちゃんと理由があります。これまでの 『プロスピ』ではゲームとしての爽快感を追求するために打球の速度を調整していました。 ただ、我々が今回目指したのはリアルなプロ野球を再現して没入感を高めるということ。研究中に現実とは違う情報があると没入感が損なわれることがわかったので、リアルな打球速度に近づけました。 ホームランを打ったときの演出などほかの方法での爽快感の見せ方を研究して取り入れたので、全体的には爽快感は失われてはいないと思います。 リアル版栄冠ナインともいえる白球のキセキの実装理由は? ――本作に搭載されている選手やデータはどの時点のものなのですか。: 山口: リリース時は2024年7月1日時点でのデータを収録しています。選手に関しても7月1日時点で支配下登録されている選手が搭載されていて、発売後もアップデートでデータを更新していきます。 また、タイトルに2024-2025とあるとおり、2025年版への無料アップデートを2025年の春ごろに予定していて、今年のドラフト会議で入団した選手や新外国人選手を収録した状態でプレイできるようになります。 ――すこし気が早いですが2025年版も楽しみです。本作では既存のモードに加え、“白球のキセキ”と“myBALLPARK”の2モードが新たに登場しました。とくに“白球のキセキ”は『パワフルプロ野球2024-2025(パワプロ2024-2025)』の人気モード“栄冠ナイン”のリアル版ともいえると思います。なぜ『プロスピ』にも高校野球をテーマにしたモードを実装しようと考えたのですか。 池本: 新たな機能としてチームエディットが搭載されてプロ野球の12球団以外の球団を作って遊べるようになったことで遊び方の幅が広がりました。 遊びかたの幅が広がったと同時にプロ野球だけではなく野球そのものが好きな人に対してもアプローチしたいと考えたときに高校野球をテーマにした“白球のキセキ”の搭載を決めました。 ――『パワフルプロ野球』シリーズの人気モード“栄冠ナイン”と似ていますが、選手を操作できたり、細かな違いがいくつもあると感じました。: 池本: “栄冠ナイン”は試合の操作をなくして、アクションが苦手な人でも楽しめるように特化したモードです。“白球のキセキ”も同じような遊び方ができますが、 『プロスピ』の操作が好きな人も多いので、選手を操作できるようにしました。プレイヤーが好きな遊び方で楽しめます。ペナントモードのシミュレーション版という感覚が近いかもしれません。 ほかにも、“栄冠ナイン”に比べると試合数が増加していてより現実に近くなっています。とくに東京や大阪など参加校数が多いところは顕著ですね。ですので、遊びやすくなるように日程早送りなどのシステムも用意しました。プレイヤーにとって遊び方は自由がコンセプトです。 ――“ペナントモード”だと転生選手が登場しますが、“白球のキセキ”だと憧れているという形で能力が近い選手が登場しました。この違いには何か意図があるのですか。 池本: 正直に言えば大人の事情です。あくまでそっくりな選手という形です。 ――なるほど。もうひとつの新モードである“myBALLPARK”についてもお聞かせください。あのさん、雪平莉左さん、森元流那さんが秘書として登場しますが、3人はどのように選定したのですか。: 柿崎: 3名とも知名度があり、ファンが多いかたたちということで選ばせていただきました。プレイしたときに秘書を選べるのですが、私は毎回、好きな雪平さんを選んでいます(笑)。 ――そうなんですね(笑)。選手ではOB選手が使えるとうれしいのですが。: 柿崎: “myBALLPARK”はどんどんアップデートしていくコンテンツですので、OB選手が使用できるかについても検討しています。 ――誰が使用できるのか楽しみです。本作では現実の試合を再現したシーンを楽しめる“プロ野球速報プレイ”というモードがありますが、『パワプロ2024-2025』で遊べる“LIVEシナリオモード”との違いがあればお聞かせください。 山口: 試合中の再現しているシーンは基本的には同じになります。 ――これは要望でもあるのですがプレイステーション4版の『パワフルプロ野球』シリーズのようにVRモードを制作する予定はありますか。よりリアルになった本作を選手の視線でプレイしたり、リアルな球場を眺められると、楽しそうだなと。 山口: じつはそういったお声を多くいただいていますが、いまのところは何とも。前向きに検討したいと思います。 ――アップデートで選手の追加を検討しているとのことですが、それ以外の要素を追加するダウンロードコンテンツ(DLC)の販売は予定されていますか。 山口: 現状では応援曲関連のDLCを予定しています。また今作から登場曲を設定できる機能を追加しており、一部の楽曲になるのですが、選手の登場曲も販売予定です。 ――どの選手の登場曲が販売されるのか楽しみです。プラットフォームについてですが、本作では初めてSteamでも発売されます。どのような経緯で選ばれたのでしょうか。 山口: 本作はよりクオリティの高いものをお届けするというコンセプトだったので、それができるプラットフォームを考えたときにPS5とSteamが妥当だと判断しました。Steam市場が大きな盛り上がりを見せているのも理由のひとつです。 ――PS5パッケージ版の購入特典で大谷選手のスリーブがもらえますが、ダウンロード版には何か特典があるのですか。 山口: ダウンロード版にも同じように特典を検討しましたが、物理的なハードルが高くて。かわりというわけではないですが、ゲーム内アイテムを特典として用意しています。