東京・井の頭池の「かいぼり」、池底を歩いてみた
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東京都立井の頭恩賜公園(武蔵野市・三鷹市)の井の頭池で、池の水を全部抜く「かいぼり」が行われている。開園100周年事業の一環で、2014年1月~3月の1回目、2015年11月~2016年3月の2回目に続き、今回が3回目。2017年12月26日から水を抜き始めた。今、井の頭池の様子はどうなっているのだろうか。1月27日に行われたイベントに参加して、実際に池底を歩いてみた。
27日午前11時すぎ。井の頭池の岸から池を見下ろす。水がなくなって露出した黒い池底に、22日に降った白い雪がまだ一部残っていた。午前11時現在の東京の気温は5.5度。快晴で風がおだやかなためか、さほど寒くは感じない。参加者32人とともに複数の講師について池底に降り、午前のプログラム「池底で自然観察ツアー」がはじまった。 池底の土は、水分を十分含んでいて柔らかい。土というよりは泥だ。踏み出した長靴の足がくるぶしの上、あるいはふくらはぎの下ほどまで沈む場所もあり、強引に足を抜こうとすると長靴が脱げるばかりか、バランスを崩して倒れてしまいそうになる。実際、参加者のなかには、倒れて泥にまみれる人もいた。カメラを持っていたので、倒れるのは絶対に避けねばならない。あまり深いところへは行かないようにしよう、と心に誓った。 あたりの匂いを嗅いでみたが、ヘドロのような悪臭はない。足元の泥を手にとり鼻に近づけてみても、やはりにおいは感じなかった。 岸の方に目をやると、こちらのツアーを見下ろしている来園者の姿が。池の水深は平均1.6メートル。身長1.7メートルの人なら、だいたい水面が目の高さになる。かいぼりの時でないと、こういう光景は見られない。
水を抜き始めてから約1か月というのに、池底にはまだ水たまりが広がっているところがある。水たまりを眺めながらゆっくりと歩いていると、池底から水が吹き出ている箇所を見つけた。湧水だ。 もともと、井の頭池の水は湧水でまかなわれていた。青梅市など池よりも西の標高の高いところの土地に降った雨が土壌にしみこみ、地下を通って井の頭池の底から湧き出す。その水量は1日に約1万トン以上。井の頭池の水量が約6万トンだから、6日あれば池全体の水をすべて入れ替えられる計算になる。 戦後、井の頭池より西側の地域で都市開発が進むにつれて湧水は減少。地下水の利用増などで地下水位が下がってしまったのが原因と考えられている。今日、井の頭池の水は、周囲の井戸から地下水をくみ上げて供給している。 池底をじっとみつめた。小さな砂粒をまきあげながら、水は静かに後から後から湧いてくる。かいぼりができるのだから、かつてのような水量ではないのだろうが、池に地下水を供給する天然のメカニズムが、なおも働き続けているのを実感できた。昼食時に話を聞いた世田谷区の会社員、糸岡栄博さん(36)も「都心の近くに湧水があるとは」と感動していた。