「車いす社長」の妻由子さん 古い写真と亡き夫への想い
思い詰めた表情で「本当にオレでいいんか?」
企業家精神が旺盛な満さんはまもなく独立し、不動産ビジネスに乗り出す。資金繰りに追われながらも、青年実業家として充実した日々をすごす。しかし、スポーツ万能ながらスキーのストックが手につかなくなる。指に力が入らない。働き過ぎからの疲れかと思い込もうとしたが、進行性筋ジストロフィ発症のサインだった。 握力が低下し、歩き方もぎこちなくなる。それでも、ふたりの交際は順調に進んでいた。やがて、互いに「結婚するなら」と決めていた30歳が近づく。由子さんの著書によると、ある日、満さんが車を止め、思い詰めたような表情で、由子さんに告げた。 「本当にオレでいいんか? 同情ならやめておこう」 由子さんはキッパリと伝える。 「あなたと一緒に生きていきたい」 満さんは正面を向いたまま、「わかった」と小さくつぶやく。この短いやりとりの中に、ふたりの覚悟が凝縮し、響き合った。あこがれの香港でふたりだけの結婚式。満さんは由子さんのサポートを受けながら、「車いすの闘将」「介護革命の旗手」として快進撃を開始する。
「なぜ難病と分かっていたのに結婚したんですか」
由子さんが「春山満の妻」として、よく受ける質問がある。 「なぜご主人になる人が、難病とわかっていたのに、結婚したんですか」 質問の答えは、若き日の満さんへの返答である「あなたと一緒に生きていきたい」につながる。由子さんに真意を聞いた。 「難病だからとあきらめると、絶対に後悔する。いちどあきらめると、何度も後悔を繰り返してしまう。そんな生き方をしたくない。それよりも、何もないふたりがゼロから作り上げていく人生は、きっと素晴らしいはずと考えていました」 事実、結婚後の30年を振り返り、由子さんは「苦しいこと、辛いことがありましたが、楽しいことの方が多かった」とまで言い切る。由子さんは社内では経理を担当し、経営戦略に深く関与することはなかったが、満さんの車いすを押して、さりげなくサポートしながら、企業家・春山満の独創的行動を、特等席で見守っていた。 「なるほどこんなふうに攻めるのかと、感心することがありました。春山は苦労を重ねて山頂に到達すると、すぐに新しい山に登りたがる。次から次へと困難な目標に立ち向かっていくプロセスそのものが楽しかったですね」