井上弟・拓真が世界初挑戦。兄弟4団体統一への秘策は兄直伝“70秒殺の左”
プロボクシングの年末を飾るトリプル世界戦(12月30日・大田区総合体育館)の発表が7日、都内で行われた。米国で37年ぶりにベルトを奪取したWBO世界スーパーフェザー級王者の伊藤雅雪(27、伴流)が同級1位のイフゲニー・シュプラコフ(28、ロシア)と初防衛戦、WBC世界ライトフライ級王者の拳四朗(26、BMB)が同級8位のサウル・フアレス(27、メキシコ)と5度目の防衛戦、3階級王者、井上尚弥(25、大橋)の実弟で、WBC世界バンタム級4位の井上拓真(22、大橋)が、同級2位のペッチ・CPフレッシュマート(24、タイ)と、WBC世界同級暫定王座決定戦を争うことになった。同級王座は、ルイス・ネリ(23、メキシコ)が保持していたが、3月に山中慎介の挑戦を受けた際に体重超過で王座を剥奪されて以来、空位となっている。1位のノルディ・ウーバーリ(32、フランス)と3位のルーシー・ウォーレン(31、米国)の間での王座決定戦をWBCが指令しているが交渉が難航しているため、今回、暫定王座決定戦が行われることになりJBCも認可した。今後、この試合が正規の王座決定戦となる可能性もあり、井上兄弟でバンタム級の4団体統一を果たすという日本ボクシング史を塗り替える大きな夢も近づいてきた。
対戦相手は48戦無敗の強敵サウスポー
「2年越しの世界戦。この2年間、悔しい思いをしてきた。やっと決まったか、という気持ち」 偉大なる兄の影に隠れていた2歳違いの弟の井上拓真がヒノキ舞台にたつ。 2016年の年末に当時WBO世界バンタム級王者だったマーロン・タパレス(フィリピン)への挑戦が決まっていたが、その記者会見を行った日のスパーリング中に右拳を脱臼。世界戦は中止となった。手術を受け、1年のブランク。復帰戦で世界戦経験のある久高寛之、続いて益田健太郎と国内トップボクサーとの日本人対決の試練を乗り越え、9月には、OPBF東洋太平洋バンタム級王者でWBC同級3位、マーク・ジョン・ヤップとのWBC世界バンタム級指名挑戦者決定戦を勝ち抜き、本当の実力を示してチャンスを勝ち取った。 「2年前は、あのまま世界戦をしてもどうなるかわからなかった。自信がなかった。でも強敵を倒してきたし、フルラウンドを戦いスタミナもついた。体も一枚、二枚とごつくなってバンタムの体になってきた。キャリアを積めた。いいタイミングだなと思う。2年前よりも必ずとれる自信がある」 今思えば、これでよかったのかもしれない。 指名挑戦者決定戦に勝ってからも、当初は、10月に1位のウーバーリと3位のウォーレンで王座決定戦が行われる予定で、その新王者が2位のペッチとの指名試合を行わねばならず、拓真は「次の次」という立ち位置だった。 「来年という話もあって、どうなるかわからずに練習していてもモチベーションが保てなかった」 結局、その正規王座決定戦が前へ進まず、暫定王座決定戦となってチャンスが転がりこんできた。12月に予定されている正規王座決定戦の最終的な契約が今月末までに交わされない場合は、この暫定王座決定戦が正規王座決定戦として昇格する方向で、拓真も「できれば、正規の決定戦になって欲しい」と本音を漏らした。 パウンドフォーパウンドに名を連ねる兄からは、ひとことだけ。 「やっと決まったな」と声をかけられた。 「兄弟なんで。そんなもんですよ」 拓真は初挑戦で世界を獲れるのか? 相手のペッチは48戦(33KO)無敗の長身のサウスポー。WBCのシルバー王座を14度防衛しているが、たいした相手とやっておらず、戦績を、そのままには受け取れない。だが、相手のパンチへの反応がよく、ウィービング、ダッキングのテクニックがあり、メリハリのある攻撃にはスピード、パワーを兼ね備えており、しかも多彩。右の正確なジャブから、左ストレート、左フックを強く打ち込んでくるし右のアッパー一発で相手を仕留めた試合もある。 簡単な相手はない。 大橋秀行会長は「強敵だが、今の勢いなら間違いなく勝てる」と断言。拓真も「サウスポーに苦手意識はない」と言うが、ボクシング界では、拓真のように小柄なファイターが最も噛み合わないとされる相手である。 だが、拓真には秘策がある。